俺の記憶ストレージ Part 1&2

色事を担当する色男

コステロ自伝 ANNEX Part 22 後編

前回、

この1年後にコステロはオランダで「Get Happy!!」を録音する。
1979年のツアーで既に「Get Happy!!」の数曲が披露されているが、最終形アレンジと違う形で披露されている。
この本の中でも出てくるが、コステロが 「Emotional Fascism」レコーディング時に聴いたThe Jamの「All Mod Cons」を聴いて、「前と同じことをやっていてはダメだ」という信念を得たことと、コロンバス事件が本心の行動ではないということの証明のために、モータウン/スタックスのレコードからアレンジを拝借して曲を弄りまくったことによるのだが、このアレンジの変更が凄まじい。

と書いたが、どう変わったのかをまとめたいなと。このアルバム、初期でも特に好きなアルバムなので。
なお「ビュエル・ソングス」と書いているのは、ビュエル関連のイザコザから生まれた曲です。みんなビュエルを避けたがるけど私は避けません!

Love For Tender

アルバムの1曲目は意思表明。モータウン全開でこのアルバムは60sブラックミュージックで行くぞ、ということだ。
この曲に関しては、デモバージョンと完成形はテンポ、リズム、曲構成は変わっていない。完成形はゴージャスになった。
ライブでは殆ど披露されておらず1981年以後は演奏されていないようだ。

デモ
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完成版はこれだがビデオクリップはなぜかレコードよりもかなりテンポが速くて違和感がある
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モータウン全開の曲で、シュープリームスの「恋はあせらず」が元ネタ。
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これをザ・ジャムも「Town Called Malice」で拝借している。
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Opputuity

ビュエル・ソングス。
完成版は落ち着いたアレンジ。ライナーノーツによると、アル・グリーンのバックバンドのような演奏、とのこと。
この曲はアルバムリリース前の1979年に1月にはライブで披露されている。かなりニューウェーブ的な演奏になっている。
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The Imposter

これもアルバム発売前にライブで披露されているがコロンバスの後のものなのでさほどアレンジは変わらず。
これはスカ・パンクの類なのでスペシャルズのプロデュースからインスパイアされたのだと思う。ただし、他のスカソング程、裏打ちは強調されていない。
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Spinning Song Book Tour ではMC中のジングルとしてリフが使われていた。
あと2013年の日本公演ではこの曲のリクエストがあったが、「うーん?」と困りながらも、構成うろ覚えで1コーラスだけ披露されていた(この日、現地で見てました)。

Secondary Modern

これもライナーノーツによると、アル・グリーンのバックバンドのような演奏とのこと。
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これはデモなどはないが、1983年にTKOホーンズを従えたライブバージョンがある。

1979年のライブがあり、かなり印象が違う。
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King Horse

シングル候補だったとのこと。
デモバージョンはスカっぽいアレンジだが、ストレートなアレンジに変えられている。
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ギターパートはフォー・トップスの「Reach Out (I'll Be There)」が元ネタ。
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Possesion

ビュエル・ソングス。
10分程で書かれたらしい。
これもTKOホーンズを従えたライブバージョンがある。

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ディランの「Is Your Love in Vain? 」のイントロから拝借。
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このイントロは「青い影」のようにも聴こえる。

冒頭の歌詞はビートルズの「From Me to You」と同じ、って読むまで気づかなかった。

Men Called Uncle

英国マージービート/リヴァプール風のアレンジを施したとのこと。まあ、60's R&Bに影響を受けているので孫受けというところでしょう。
デモバージョンも存在するが、ほぼそのまま完成版へ。
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巷で言われるほど、コステロミスチルに似ているとは思わないのだけれど、この曲はちょっと似ているなと思っている。

1979年の8月に北欧で2回ほどライブ演奏されているが音源が残っておらず、もともとどのようなアレンジだったかは不明。

Clowntime Is Over

これはNo.2の存在がかなり有名だが実はアレンジには紆余曲折ある。

1979年8月の初披露では2トーンバージョン、つまりスカアレンジだった。
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完成版はミディアムテンポのアレンジ。こちらはオランダで録音された。
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その後に出来たNo.2はバラードアレンジになり、こちらはロンドンで再録音された。

結局No.1の方がアルバムに収録されることになったが、No.2もアウトテイクではなく、「High Fidelity」のB面でリリースされているから、こちらも捨てがたいと思っていたのだろう。
こっちのバージョンのライブも良く耳にする。
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New Amsterdam

デモバージョンからアレンジ変更は難しかったそうでほぼそのままの形で完成へ。なのでこの曲はロンドンで録られ、プロデュースはコステロ本人。
これはフォークワルツみたいな感じで、黒っぽさが皆無ですね。

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絶対に何の関係もないと思うが、これを聴くとリリース当時、物議を醸したZIGGYの「午前0時のMerry-Go-Round」を思い出してしまう。

High Fidelity

ビュエル・ソングス。

これも1979年初頭から演奏されているがアレンジが大幅に変わった。もともとはデヴィッド・ボウイの「Station to Station」の影響が大きいアレンジだったとのこと。
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絶対に何の影響も受けていないと思うけど、「Station to Station」はレインボーの「16th Century Greensleeves」に似ている。

完成版では、それがシュープリームス風のアレンジへ変更したとのこと。シュープリームスの・・「Stop in the Name of Love」かな?

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I Can't Stand Up For Falling Down

サム&デイブのカバーで、1967年にスタックスで発表された「Soothe Me」のB面の曲だった。最も有名な全米2位「Soul Man」の一枚前のシングルでこちらは全米56位。
ただUKでは35位と中ヒット。コステロはこれを聴いたのだろうか。

スローな曲。R&Bマナーのバラードなので黒っぽさをアピールしたかったら別にこのままでも良いはず。
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なので、Alternate Versionもこのアレンジに準拠している。
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しかし、どういうわけかこれをアップテンポ&頭打ちリズムに改変するのである。スタックスからモータウンへのコンバート。
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PL&Uといい、オリジナルを超えてくるのがアトラクションズのアレンジ。
ボブ・ディランの最近の著書でコステロの「Pump It Up」を取り上げているが、同時代でダントツの実力のバンドだったとベタ褒めしていたが、確かにその通りだと思う。

この曲は1980年2月にリリースし、8週に渡ってチャートイン、全英最高4位と大ヒット。USは事件の影響かチャートインしなかったが、UKではコロンバス事件なんて何の影響もなかったようだ。
この曲の大ヒットの影響なのか、陽の当たらないB面の曲だった「I Can't Stand Up for Falling Down」が1984年にはベスト盤のタイトルになるまで昇格している。
ただ、これ以後のコステロの大ヒット曲はカバー曲ばかりになってしまう・・。「Good Year For Roses」しかり「She」しかり。

Black And White World

Demoバージョンは、アコースティックなアレンジ。完成版とはかなりイメージが違う。骨格だけになるといかにもコステロらしいメロディと構成の曲に聴こえる。
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完成版のアレンジはリトル・フィートの「Cold, Cold, Cold」から拝借したとのこと。
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また、ライナーではレイ・デイヴィスが云々と言っているのでキンクスを意識したのかもしれない。

5ive Gears in Reverse

デモバージョンが存在するが、ロックなアレンジ。
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1979年8月にライブ演奏されているが、デモバージョンとアレンジは殆ど同じ。その後にリアレンジされ、完成版になる。
完成版はロックとR&Bが半々みたいなアレンジに変更されている。サビまではベースとギターがユニゾンというコステロには珍しい曲。

B Movie

コロンバス事件の影響で大幅に変わった1曲。Alternateも良い出来なのでこれが消えるのはもったいない気がする。
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1979年に披露されていて、そちらはかなり「Armed Forces」でポップな雰囲気。スティーヴ・ナイーブも大暴れしている。
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完成版はかなり大胆なアレンジが施されている。スカとR&Bの融合と言って良いのだろうか。
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ところで、この曲のドラムのサウンドが結構変わっている。残響(エコー)がかなり強めにかかっているが残響をバツっと切っている。つまりゲートリバーブのようなエフェクトがかかっている。

ゲートリバーブスティーヴ・リリーホワイトがプロデュースしたピーター・ゲイブリエルの「The Intruder」が初めて、という説がある。これが1980年の5月。
しかし「Get Happy!!」は1980年の2月リリースなのである。まあ、一般的なゲートリバーブとは異なる音だけど、この時点で先駆けてゲートリバーブ的なサウンドを作り出していたと言えるのでは?

Motel Macthes

このアルバムでは数少ないバラード。
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ちょっと浮いている感じがするのは黒っぽいバラードじゃなくて白っぽいカントリーバラードだからかな?
Alternate Version はギターメインのアレンジだったが完成版ではキーボードメインのアレンジ。

Human Touch

Alternate Version もスカアレンジだが、完成版はより強めのスカに変更されている。

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このアルバムはモータウン/スタックスアレンジが主といっても実はスカの要素も濃い。
2トーンスカの「2トーン」は「白黒」から来ているので(エボニー&アイボリーみたいだな)、コロンバス事件以降、黒を強調したいコステロの意図としては間違ってはいない。

ただ、この曲は影が薄く、10回ほどしか演奏されておらず、しかも1981年以降全く演奏されていない。

Beaten to the Punch

これも英マージービート/リヴァプールなアレンジ。たぶんRevolverの頃のビートルズかな?ベースのウネり方が「Rain」「Paperback Writer」「Taxman」のよう。
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これだけ、デモもAlternate Versionも存在しない。ライブ演奏も12回だけ、かなり影の薄い曲。

Temptation

ビュエル・ソングス。
コステロのお気に入りっぽく、ライブ演奏回数もかなり多い。
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「Idle Hands」というタイトルのプロトタイプも存在するようで、1979年の3月に披露されているようだ。
冒頭リフとAメロは同じだが、Bメロ以降が異なる。このままだと「Armed Forces」に入ってそうな感じもする。
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Idle Hands - The Elvis Costello Wiki
Wikiによると9回披露されただけ、のちに「Templation」に生まれ変わる。

私の超お気に入りのスクイーズの「East Side Story」の1曲目「In Quintessence」は、この曲を聴いて作ったんだとか。
しかしながら、このアルバム、コステロプロデュースなのだが、実はこの曲だけデイヴ・エドモンズのプロデュース・・・。
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ブッカー T & the MGs' の「Time Is Tight」が元ネタとのこと。
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I Stand Accussed

英国マージービート系バンドのザ・マージービーツ(ややこしいわ)のカバー。
こちらはザ・マージービーツのオリジナル。
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Alternate Version はリズムパターンを弄って4ビートリズムのようなジャズっぽいアレンジに変えたが、結局、最終版はオリジナル通りの頭打ちリズムのアレンジに戻して、さらにテンポアップしている。
その方がモータウンっぽくて統一感がでるということだろうか。
さらにコステロバージョン特有のアレンジとしては「I Stand Accussed」のエンディングでスペルを叫んでいるところだろう。
これをスペルアウト唱法と勝手に名付けるが、このスペルアウト唱法は Alternate Version の時から存在する。

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ちなみにライブで演奏されたのは1978年と最も古く、この頃は最終版に近いアレンジだが、スペルアウト唱法は行っていない。
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ちなみに最終版でハーモニカを吹いているのはなんとブルース・トーマスである。

※ 2023.5.26 追記
ブルース・トーマスはキャリア初期にハーモニカ奏者としてバンド参加を打診されたことがあるほど上手いらしい(ブルース・トーマス著「Rough Notes」から)

Riot Act

ビュエル・ソングス。
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デモと完成版のアレンジこそ、さほど変わらないが、完成版はかなり激しい。
個人的に山下達郎の「夏の陽」を思い出す曲。
なんとなく、ライブで演奏される頻度が多い気がするが、実はそうでもなかったりする(120回程なので少ないわけではないが・・)。
初披露は1984年で遅めだ。

Girls Talk

アルバムには入らなかったが重要曲なので。

酔っ払った勢いでデイヴ・エドモンズロックパイル)にあげてしまったら大ヒットしてしまった、という話は有名だが、ロックパイルのバージョンとはかなりアレンジが違う。
個人的にはロックパイルのアレンジの方が好きではある。

ロックパイルの方は1979年の5月にリリースされている(レコーディングは1978年)。バディ・ホリー風のアレンジ。
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コステロバージョンのアレンジは(大ヒットしたロックパイルを意識したのか)なかなか定まらない。

ロックパイルのバージョンがリリースされる前、1979年2月のロサンゼルスでジョン・マカフィーをゲストギタリストに迎えてライブ演奏している。
パンク風の速いビートのアレンジにジョン・マカフィーのスライド・ギターが乗る、カントリー・パンクなアレンジ。
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その後、コステロはAlternate Versionとして1979年10月にレコーディング。こちらは「Pump It Up」風のアレンジになる。
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結局これもオクラになり、最終版は「I Can't Stand Up For Falling Down」のB面でリリース。おとなしめのアレンジに落ち着いた。
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From Whisper to a Scream

おそらく、このアルバムに収録しようとしたが、上手くまとまらなかったのだと思う。頭打ちモータウンアレンジだったが、ストレートなロックナンバーに変更する。結局スクイーズのグレン・ティルブルックをゲストボーカル&マーティン・ベルモントツインギターの片割れに迎えて「Trust」で発表する。
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ちなみにグレン・ティルブルックのギターはかなり上手く、「Another Nail in My Heart」のソロはとんでもない出来。コステロとかなりレベルの差がある。これで弾いても良かったのに。

Watch Your Step

コステロが19〜20歳の頃に書かれた曲。ジャズコンボ風アレンジの完成版を知っているから、かなり派手なアレンジに聴こえる。「Punch The Clock」に入ってそうな。
これも「Trust」で発表する。
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New Lace Sleeves

これもコステロが19〜20歳の頃に書かれた曲。これも「Trust」で発表するが、このアレンジはスカアレンジ。
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おそらくこの辺の古い曲を持ち出してきたのは、若い頃に造ったときはアレンジがどうにもならなくて一旦オクラにしていたけど、モータウン/スタックス漁りしていたらアレンジのネタ元が大量に出来たからリアレンジを試みたのだと推察。