16章ではクローヴァーとアトラクションズの話が出てきたが、クローヴァーで録音した曲がアトラクションズでどうなったか。
この時期のライブ音源は公式に出ているものでもかなり多い。
アトラクションズとして1979年までの音源で公式にリリースされている音源をまとめてみた。ただしコンピは除外。
最近良く見かける公式なんだかブートなんだかよくわからない音源も除く。たぶんラジオで放送された音源をそのまま円盤化しているだけだと思うが・・。
My Aim Is True (2007 Hip-O deluxe edition) の Disc 2 "Live at The Nashville Rooms"
1977年8月7日のロンドン、ナッシュビル・ルーム。
サウンドチェック時の音源もあり貴重。「Watching The Detectives」のシングルのB面に入っていたライブ音源もこの日のもの。
公式に出ているものでは最古の音源。演奏は中々面白いというかアトラクションズが演奏しているのに、ちょっと遠慮した感じでまだ本領発揮という感じじゃない。
基本的にはクローヴァーの演奏をコピーしてみました、みたいな感じ。
This Year's Model (2008 Hip-O deluxe edition) の Disc 2 "Live At The Warner Theatre, Washington, DC"
1978年2月28日のワシントンDC、ワーナー・シアター。
2ndの曲メインで3rdの曲も入ってきているが1stの曲もある。この頃になると、クローヴァーってなんだっけ?みたいな感じの演奏になる。
Live At The El Mocambo
1978年3月6日のカナダのトロント、エル・モカンボでのライブ音源。
古参のコステロファンにとってはコステロのライブといえばこれだった。これしかなかった。
観客がうるさい。コステロはハリウッド・ハイの時にサクラの客が入っていると書いていたが、こっちの方がうるさい。
Live At Hollywood High
1978年6月4日のロサンゼルスのハリウッド・ハイスクール。
3曲だけ「Armed Forces」の付録EPに収録されていて、リイシューでさらに曲数が増え、結局完全版(だが2曲オミットされているらしい)がCD化された(2010)。
Armed Forces Super Deluxe Edition の "Riot At The Regent"
1978年12月3日、オーストラリア、シドニー、リージェント・シアター。
音がかなり良いので完全版がほしいなぁ。
Armed Forces Super Deluxe Edition の "Christmas In The Dominion"
1978年12月24日、ロンドン、ドミニオン・シアター。
この頃になると1stの曲は殆ど影を潜める。「Alison」と「Detectives」しかやってない。
Armed Forces Super Deluxe Edition の "Europe '79 - Live At Pinkpop"
1979年6月4日、オランダ、シッタートヘレーンのピンク・ポップ・フェスティバル。このフェスにはポリスも出ている。
この頃には3rdっぽいニューウェーブ的な演奏に近づいている。
4th「Get Happy!!」の曲も多数演奏しているけれど、アレンジがモータウン/スタックスになる前の過渡期的なアレンジ。
Concert 1979-06-04 Geleen - The Elvis Costello Wiki
この他にも、リイシューのボーナストラックに入ったものもあるし、前述したようにおそらくコステロ本人が許諾してなさそうな謎のライブ・アルバムもあるが割愛する。
それで、「My Aim Is True」の曲が、アトラクションズでどうなったか、という観点で纏めてみた。
すべてライブ音源で1977年から1979年あたりのもの。
Welcome to the Working Week
この曲はあまり印象は変わらない。テンポは早くなっているがタイトな演奏はそのまま。
アルバム中もっともパンクなアレンジなのでアレンジし直す必要はなかったということだろう。
キーボードが入り、イントロのコーラスは消えている、というかアトラクションズにコーラスはできない…できないわけじゃないが人前で披露するレベルではないと思う。この辺はバックコーラスが上手いベーシストがいるインポスターズに一日の長がある。
演奏頻度はそれほど高くないが、全然演奏しないわけでもない。
Miracle Man
この曲は結構演奏頻度が高い。
この曲はかなりイメージが変わった。オリジナルはリズムの重心が後ろにあるようなザ・バンドみたいな演奏だったが、アトラクションズは前のめり・・というかピート・トーマスがそもそもそういう演奏スタイル。
キーボードが全面に入って、テンポアップしてリズムもタイトになった。
特に1978年のハリウッド・ハイのバージョンはかなりハイテンポでザ・バンド感は微塵も無くなっている。
特筆すべきはベースラインで、1977年の頃はオリジナルに近いベースラインだったが、1978年になるとこれぞブルース・トーマスといったメロディアスなランニングベースが出てくる。
XTCのコリン・モールディング、ポール・マッカートニーあたりを彷彿とさせる。
Bメロのベースラインを是非聴いてもらいたい。
それと、コステロのギターリフから入る曲は少ないのだがこの曲はそういうアレンジに変更になった。
しかもこのギターリフのイントロ、表なんだか裏なんだかわからないトリッキーなものになっている。
コンサート終盤ではメンバー紹介が挟み込まれ各人のソロプレイが披露される。
No Dancing
この曲は1977年と1979年で大幅にアレンジが変わっている。
1977年はクローヴァーのバージョンに近いマージービートなアレンジ。
1978年には思い出したようにセトリに入るが、常連というわけでもない。
1979年にはかなり大胆にアレンジが施され、コステロには珍しくハイハットで16を刻むディスコビートになる。
時代的には確かにディスコブームではあった。
ふと、はっぴいえんどが1985年に再結成したときのアレンジを思い出した。
Blame it on Cain
Blame it on Cain、Sneaky Feelings、Pay It Backのスワンプ三兄弟の長男。最も演奏頻度が高いのがこの曲。
もともとスワンプっぽい演奏だがテンポアップしてキーボードが入ることでニューウェーブなスワンプに生まれ変わっている。
Alison
オリジナルはジョン・マクフィーのギターが目立ちに目立つアレンジだが、コステロには弾けないフレーズなので鍵盤が前面に出てくる。
1977年のアレンジはシンセでコード弾きするだけだったが1978年にはピアノに変更されて、カウンターメロディが目立つアレンジになった。スティーヴ・ナイーブの抑制の効いたプレイが素晴らしく、本領発揮といったところではないだろうか。
初期はそれほど演奏頻度は高くなかった。要求が多かったので拒否していたのだろう。結局キャリアトータルでは、全楽曲でも2番目に演奏頻度が高い曲になった。
なお1位は「Watching The Detectives」、3位は「Pump It Up」。
Sneaky Feelings
スワンプ三兄弟の次男。
これはほとんどアトラクションズでは演奏されていないのではないだろうか。1977年当時もたまに演奏される程度で、その後ほぼ出てこなくなる。
アレンジはクローヴァーとほぼ同じだが、キーボードが入っている。
また、エンディングの前のブレイクはオリジナルにはなかった。
2007年にクローヴァー再結成コンサートの時に、ピート・トーマスがこの曲のBPMを測った上でカウントしたら、コステロが「そんなに遅かったっけ?」と言っていたエピソードが書かれている。
1977年頃のブートを聴くと確かにかなりテンポが速い。
テンポを早くするくらいしかアレンジできなかったような気もする。
Red Shoes
キャリアトータルで全楽曲で7番目に演奏頻度が高い曲で超人気曲と言っても良いだろう。
バーズみたいなジョン・マクフィーのギターは当然コステロは弾けないので、イントロはコードストローク。
いつからかスティーヴ・ナイーブのキーボードでアルペジオ感を出すようになった。
テンポもアップしていてメロコアの元祖みたいな感じもする。
が、1979年には一転テンポダウンし音の空間を生かしたアレンジになった。
この頃はもうパンクの文脈でアピールしなくても良くなったのだろう。「No Dancing」もディスコアレンジになっているし。
Less Than Zero
これもザ・バンドのような演奏。
アトラクションズ・バージョンもそれほど印象は変わらない。
SNLで「Less Than Zero」を途中で止めて「Radio Radio」に切り替えたのが有名なので、噛ませ犬感がある。
この曲もライブだとコステロのリフから始まる。演奏頻度は結構高いのではないだろうか。
2000年代になっても結構演奏している気がする。
Mystery Dance
オリジナルはスクエアな演奏とはいえ曲調から50'sっぽいのだけれど、アトラクションズバージョンはドラムロールから入り、VOXコンチネンタルが鳴り響くため、かなりニューウェーブ的な演奏に様変わりした。
ちょっとハンブルグ時代のビートルズみたいな、トニー・シェリダンみたいな印象もある。
Pay It Back
スワンプ三兄弟の末っ子。これもかなり演奏頻度が少ない。
アトラクションズができた頃は創作活動も盛んで2ndの曲はレコードができる前にステージで披露しており、そうなるとスワンプ3兄弟はどんどん角に追いやられていく。
自分が1stを聴いて「これがパンクなの?」と思ったのはスワンプ3兄弟の印象が強かったから。
パンク的な路線で行くために、「Stranger In The House」をアルバムから外した、という話があるが、スワンプ系も実はパンクからかなり遠い感じがする。
「Miracle Man」は何とかパンクに衣替えできたが、スワンプ三兄弟のように跳ねすぎているとちょっとアレンジが難しいのかなという気がする。
I'm Not Angry
これも演奏頻度が少ない曲だが、オリジナルとはかなりアレンジが異なる。
オリジナルはこの曲だけ1stの中でも異質なんだよね。アメリカ感もないし、パンク感もない。
なんかハードロックっぽいんですよ。ギターソロもあるし。
ジューダス・プリーストがカバーしたら上手くまとまるのかもしれない。
思うに、初期に演奏していてその後セトリから消えていった曲はアトラクションズバージョンのアレンジが上手くまとまらなかったからなのかな?という気がしてならない。
同じくアップテンポでマイナーキーの「The Beat」が良い感じで出来たから、この曲は「ま、いっか」みたいな感じで消えていったのかなという気がする。あと、よくよく考えたらコステロの曲に純粋なマイナーキーの曲が少ない気がする。マイナーでも7thが入ってますね、大抵。
Waiting For The End Of The World
オリジナルは「Miracle Man」と似た感じのザ・バンド風アレンジだったけど、これまた大きく様変わり。
1977年の初期はクローヴァー準拠だったが1978年には、「Miracle Man」のアトラクションズバージョンと同じ方向性のアレンジ。
かなりパンキッシュになっている。
Watching The Detectives
この曲は演奏頻度歴代No.1。
オリジナルはクローヴァーではなくルーモアのリズムセクション。個人的にはオリジナルのイントロのドラムフィルは歴史に残るような出来だと思っている。
コステロも書いているように、この曲がアトラクションズアレンジのベースになっているのでオリジナルと殆ど変わりないアレンジ。
その後もずっとこのアレンジ。まあこのレゲエアレンジを変えられるはずがないとは思う。
だが、ベース、ドラムとかなり自由に演奏しており、ライブバージョンのピートとブルースのインタープレイの暴れっぷりはすごい。
ピートのドラムはスチュワート・コープランドとタメ張るなと思います。
スチュワート・コープランドはドラマーランキングで上位に来るのにピートは来ないんだよなあ。
アトラクションズはそもそも誰も来ない。みんな聴いてないだけでしょ。
Radio Sweetheart
この曲も若干カントリー気味だけど、アップテンポ。オリジナルにはペダルスティールギターが入っている。
ナッシュビル・ルームでのサウンドチェックにかけられたが披露されてはいない。
たぶん、最後の掛け合いのコーラスが問題になったのかなと思う。人前で披露するレベルのコーラスではない。
面白いことに、1979年のジョン・マクフィーがゲストでペダルスティールを弾いているライブテイクは掛け合いコーラスの代わりにペダルスティールが活躍している。
Stranger In The House
最もパンクの文脈からかけ離れたカントリーバラードで、オリジナルはイントロからペダルスティール全開でリズムもスウィングしている。
初出は1978年の2nd LPの付録シングルだったようだが、今では「Almost Blue」のことを知っているので特に驚きはないかもしれないが、パンク全開のアルバムのオマケがこれだと腰を抜かしたんじゃないか?
1stアルバムと同時期の録音だが、1stからはオミットされているが、その理由があまりにもカントリーすぎるから、だったらしい。
そのため、この時期のライブアレンジもオリジナルとはかなり異なるものとなっている。
バラードという体はそのままに1977年のアレンジはちょっと凝ったもので、(当たり前だが)ペダルスティールがないのでカントリーっぽさは希薄になる。
1978年にはもうちょっとオーソドックスなバラードスタイルに落ち着く。
1979年には1978年のアレンジのままでジョン・マクフィーがゲストでペダルスティールを弾いているテイクも公式リリースされている(「Almost Blue」のリイシュー)。
もう一つオマケ。
Neat Neat Neat
この頃、同じスティッフレコードのダムドのカバーを披露している。
こっちがダムドのオリジナルで「THEパンク」みたいなアレンジ、演奏だが、
www.youtube.com
これをアトラクションズがアレンジ、演奏すると全く別の曲になり、アトラクションズのアレンジ力の凄まじさが分かると思う。
ベースがちょっと異次元すぎますね。
サックスは当時ブロックヘッズだったデイヴィー・ペイン。
ちなみにこれは「Pump It Up」ができた後には披露されていない。サビのアレンジは「Pump It Up」にかなり似ているので、ここから「Pump It Up」に発展させていったのだろうと思う。
そして、本にも書かれているが、なんと2007年に「My Aim Is True」の30周年を記念して、クローヴァーのメンバーを呼び寄せてサンフランシスコでライブを行っている。
Concert 2007-11-08 San Francisco (early) - The Elvis Costello Wiki
Concert 2007-11-08 San Francisco (late) - The Elvis Costello Wiki
レイトショーはオーディエンス録音があるので聴いてみると面白いかもしれない。
映像もいくつか残されている。
「My Aim Is True」の全曲が本編。アンコールではおなじみの「Watching The Detectives」の他、「My Aim Is True」のボートラに入っていた曲、デモなども含み、色々と演奏されている。
ドラマーのミッキー・シャインだけ、他のメンバーと折り合いが悪く、さらに消息も分からないということで参加しておらず、ピート・トーマスが叩いている。
本来、ピートは前のめり気味で、ミッキー・シャインはちょっと後ろに重心がある感じだが、ここでのピートはかなり忠実に叩いている。
ピートはできるだけオリジナルに準拠しようと、わざわざオリジナルバージョンのテンポをメトロノームで測ったそうだ。
「Alison」のギターはほぼ完コピで驚きますね。イントロは「ホンモノだ!」みたいな感じ。
これを聴くとやはり1stはフリップ・シティの延長線上にあり、アトラクションズからの2ndで革命が起こったのかなと思ってしまう。
そして、アトラクションズにジョン・マカフィーがいたらどうなっていたのかなと妄想してしまう。
曲が長くなってギターとキーボードでバトルしたりするのかな?
2018年にはクローヴァーを再結成してアルバムを一枚残している。
www.discogs.com
ミッキー・シャインとベースのシアンポッティは亡くなっているので参加していない。
ピート・トーマスもドラムで参加している。コステロもゲストで1曲参加。
曲自体は1971年に作られたクローヴァーの楽曲で2007年のクローヴァー再結成時にも演奏されている。
ストリング・カルテットのアレンジが、「Juliet Letters」を彷彿とさせる。