俺の記憶ストレージ Part 1&2

色事を担当する色男

コステロ自伝 ANNEX Part 13

第13章は「不誠実な音楽(Unfaithful Music)」、この本のタイトル。

フリップ・シティ解散後に書いた曲の歌詞についてのお話。

エリザベスアーデンの頃の給料は週給30ポンド。1975年の30ポンドは今だと大体107ポンドくらいらしい。現在のレートで換算すると週給15000円くらい。月収だと6万円くらい。これは厳しい。
極貧生活だったのでそれを生かした曲を作ろうと思ったデクラン・マクマナスは「Poison Moon」という愛があれば貧乏なんて大丈夫、みたいなテーマの曲を書いていた。
うーん、4畳半フォーク。日本での4畳半フォークよりも3年くらい遅いが、極貧だとそういう曲を作ってしまうということか。
乳飲み子がいたのでウィスパーボイスで静かな曲ばかり、というのもそういう理由だった。出産後の竹内まりやみたいな状況ですね。

「Jump Up」「Cheap Reward」「Wave A White Flag」などなどのデモテープは、「My Aim Is True」のライコディスクリイシューのボーナストラックに沢山入っているが、何か妙な気味悪さを感じて当時はあまり真剣に聴いていなかった。

「Mystery Dance」のデモだけちょっと異質。この頃、「エルヴィス」では無かったはずなのになぜ「Jailhouse Rock」みたいな曲を書いたのか謎。

この頃、チャーリー・ジレットというDJがやっていたBBCの「ホンキー・トンク」というラジオ番組で数曲デモがオンエアされたようだ。

この章では初期の曲の歌詞について説明している。
「Jump Up」は架空の国での選挙がテーマ、守れない公約を歌詞にした
「Wave A White Flag」は近隣に住んでいた夫婦の大喧嘩の後の仲直りの情事を歌詞にした(松本人志ビジュアルバムの「ミックス」みたいなテーマだな)
「Cheap Reward」は田舎の小さなバーでの出来事
「Shatterproof」は大分後になってから音源化されたが、この頃の曲で、詐欺師について歌ったもの
「Hoover Factory」もこの頃の曲で、地元の建築物について歌っている

デクラン・マクマナスが書く歌詞は、はじめの頃は優しく穏やかなものが多かったが、だんだんアイロニカルというかそういう感じになってきたようだ(近づいて来た感がありますね)。

「Radio Sweetheart」は絶望と希望が同居した歌詞とのこと。こういう歌詞はコステロとしてデビュー時に書いていたものと同質のもの、と書かれている(かなり近づいて来ました)。

Alison」のメロディはスピナーズの「Ghetto Child」にインスパイアされたとのこと。
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この曲の歌詞の内容からコステロ本人がミソジニストだと批判されることもあったようだ。
しかしむしろ逆だぞ、という説明がこの後に長文で書かれる。

「This Year's Model」というアルバムなんかは、全体的にファッション業界とかマスコミとかそういうものへの皮肉なんだろうな、というのは、高校生の時に初めて聴いた時からなんとなく思っていた。
「This Year's Girl」は、要は流行というものへの皮肉だろう。女性を批判しているわけじゃない。
「Lipstick Vogue」も「君は君であり、流行りのリップスティックをつけた唇ではない」と言っているわけで、女が嫌いとかそういう内容ではない。
ビビ・ビュエルはモデルだったので、彼女のことを書いたのかと思ったら「Lipstick Vogue」は出会う前からあった曲なので違うだろう。「This Year's Girl」はそうかもしれない。
むしろそういう歌詞を書いていたからこそ、ビビ・ビュエルに惹かれていったのかもしれない。

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コステロを聴く前にBOOWYを聴いていたから、この辺の皮肉を受け取る免疫みたいなものはあった。
例えば「Moral」は「人の不幸は大好きサ」という歌詞があったり、「Give It To Me」も「体がなきゃ誰がお前を」なんて歌詞がある。
これを(中学生だからしょうがないが)額面通り受け取って「酷い曲!」と言っていた人もいたが、これは一人称じゃなくてそういう人を客観視して書いた歌詞だろう。
これは「氷室狂介」だった頃の作品で、その後「氷室京介」になってからはこういうちょっと分かりにくいというか皮肉めいた歌詞は影を潜めて、より分かりやすい歌詞になっていく(じゃないと売れていないような気がする)。

1978年に「Party Girl」を書いた時は、4畳半フォークの純粋さからは程遠く、有名になり欲と誘惑にまみれた時期に書かれている。「Party Girl」はビュエルのことではない、と暗に書いているが実際は良く分からない。時期的にはビュエルと出会った後だから。ただこの本で書かれたフィクションの時系列としてはまだ出会ってないことにはなっているが。

17章にビュエルのことを書いたと思われる描写があるが、そこでは再び罪を犯した、とある。これがよく分からない。
英語で書かれたこの本のレビューをいくつか読んだが、ビュエルに関しての記述がモヤモヤしていると書かれていたことが多かった。

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「High Fidelity」は不倫の曲だそうな。この曲が初披露されたのは1979年の3月25日。ビュエルとの不倫関係は1979年に一旦破綻しているのでそのことを歌った可能性が高い。

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そしてこの章の最後は、「僕はやがて住んでいた家を出てしまい、戻り方が分からなくなってしまった」と締める。