ボウズ&モーリーの来日の最中、2002年7月に驚きのニュースが入りました。
サンダー再結成!
モンスターズ・オブ・ロック開催と共に、サンダーが再結成される。ただしアルバムまで作るかどうかは決めてない、というもの。
モンスターズ・オブ・ロックと言っても一夜限りのフェスみたいなのではなく、ツアーで、ヘッドライナーはアリス・クーパーでした。ここにサンダーが帯同するというもの。
なぜサンダーが再結成することになったかというと、結構消極的な理由です。
この頃、ダニーはマネジメントの仕事がメインになってました。
で、日本で言うところの「対バン」みたいなことをやる場合、機材入れ替えが発生するので、前のショーと次のショーの間が結構時間がかかります。フェスに行ったことある人なら分かってもらえると思いますが、セッティングに40分くらい待たされます。この間は暇なんですよ。
これを短縮する方法をダニーが思いついたそうです。詳しくは分かりませんが、機材をある程度共有するみたいな方法らしいです。で、これがうまく行けば、数バンド帯同してツアーができる、と思いついて、アリス・クーパーとクワイア・ボーイズとドッグス・ダムールでモンスターズ・オブ・ロック・ツアーをしたい、とエージェントに企画を持ち込みました。エージェントは乗り気だったそうですが・・・
「この企画、良いんだけど、スペシャルゲストが必要だな」
「スペシャルゲスト・・・って誰呼ぶの?」
「・・・・サンダー!!」
「いや、無理だから、解散してるし」
「再結成すればいい」
「いや無理無理無理無理無理無理無理無理」
「じゃ、この話はなかったことで」
「・・・ぐぬぬ」
とダニーはかなり抵抗したらしいです。またアルバム作ってツアーやって、同じことの繰り返しになってしまう。ダニーはそれ以外にも仕事をやっているし、何よりもカネのために再結成したと思われるのはイヤだ、ってことだったらしいです。
で、結局この話を元サンダーのメンバーに持ち込んだところ、誰も反対する人がいなかった、ということで再結成、という運びになります。
このツアーは2002年11月に敢行されます。初回はいきなりウェンブリー・アリーナ。計10公演。
モンスターズ・オブ・ロック・ツアーの後、新作も作りたいとルークが言い出したのですが、それにもダニーは抵抗します。また同じことの繰り返しになるからイヤだ、と。ですが結局ダニーが折れて新作を作ることになります。
この辺のダニーの温度感が、再び訪れる2度目の解散にも影響してきます。
この経緯を見ていると再結成ウルフルズと似てますね。ウルフルズも2014年の再結成(活動再開?)時に、ウルフルケイスケがあまり乗り気じゃなかったようですが、結局その後、ウルフルケイスケは脱退(活動休止?)してしまいます。(とはいえ、いつか戻ってきそうではある・・)
まず手始めに4曲入りのEPをリリースします。
それが「Back For The Crack」。もともと自費出版で1000枚プレスしたがすぐに売り切れ。この出来事がきっかけで、再度ダニーがやる気になって、アルバムを作っても良いんじゃないかと思い出したとのこと。
「Back For The Crack」は2002年11月にリリース。
そして、新作をリリースするためのレーベル「STC Recordings」を新たに作り、2003年3月に新作、アルバム「Shooting At The Sun」リリース。英国ではTop100にチャートインせず。
正直な感想を言うと、個人的に最も印象が薄いのがこのアルバム。
それまでサンダーの4th〜5thから解散を経てルークソロ、そしてボウズ&モーリー、とどんどん洗練された音楽になっていって、個人的にも好みだったのですが、ここで「サンダー」再結成に伴い、パブリック・イメージにある程度元に戻そう、という選択を彼らはしたのだと思います。それが1曲目の「Loser」に現れているわけでして・・・。
重くて、そして暗い。彼らの曲でここまで重たいのは久しぶりでした。暗いって言ってもサバス的なものではなく・・・・演歌だなこれは。
歌詞も含めて演歌。ハードロック演歌。個人的な趣味を言うと、例えばB!誌編集部の皆さんが好きそうな「叙情的」が単なるクサさにしか感じないので、この曲もなんかそれ系に聴こえてしまうわけですよ。
曲自体は悪くはないんだけど、オープニング・トラックがこれなの?という思いが個人的にはあって、オープニングはバンドの意思表示だと思っているので、ああそういうことなのか、と。不評だった5thからの継続性は一旦リセットして、パブリックな「サンダー」然とした曲を作って1曲目にしたのか、と。これは僕にとってはなかなか微妙だなと。
ただ、アルバムの中でハードなのはこれと数曲くらいしかなく、ルークとダニーが本当にやりたいことは前年にリリースされたボウズ&モーリーの路線で、実際にそういう曲もあるにはあるのですが、それが逆にそこがどうにもチグハグな感じがしました。
・「サンダー」が再結成するなら、パブリック・イメージに沿った路線でリリースすべきだろうという
・でも本当にやりかったのはボウズ&モーリーの路線だけど、サンダーファンには評判がよろしくない、でもやりたいなぁ
で、ボウズ&モーリーの路線の曲もなくはないんですが、アレンジがやっぱりサンダーになるんですよ。同じギターの歪みでもボウズ&モーリーはクランチ気味のオーバードライブ、サンダーは粒の細かいディストーションよりのオーバードライブ、みたいな。クリーントーンも少ない。バラードは流石にアコースティックサウンドですが。
なんかこの当たりの中途半端さが、アルバムをまとまりのない悪い方向に持っていっているような気がしました。バラエティに飛んでいると言えば良い言い方だけど、これで曲が良ければ気にならないんですが、曲もパンチ力に欠けて地味だなぁと。なんか突き抜けた「これだ!」って曲がないんですよね。
この地味さのせいなのかなんなのか分かりませんが、恒例になっていたジャパン・ツアーもオミット。ルーク・ソロ、ボウズ&モーリーでもジャパン・ツアーやったのに、このアルバムのツアーはなし。
ちなみに再結成後二枚目の7thアルバムは吹っ切れて、「サンダー」はハードロックをやる、「ボウズ&モーリー」はR&Bをやる、という棲み分けが出来たせいか、中途半端なものにならず、どちらも良い出来になっています。
まあ、一曲一曲はそんなに悪い出来って訳でもないんですけどね。
この頃、長らくライブのオープニングナンバーだった「Welcome To The Party」に取って代わって「Loser」がオープニングという定位置を掴みます。「Backstreet Symphony」だった時期もありますが、「Loser」の方が割合的には多いと思います。
それも僕はどうかと思っているんですが・・・。ライブのオープニングって別にスローな曲でも良いと思うんですが、極端に暗い曲はあまり良いとは思えないんですよ。「Welcome To The Party」とか「Backstreet Symphony」がオープニングナンバーであってほしかった。
「Back For The Crack E.P.」のリーダートラックがこれなんですが、こっちのほうがよっぽど良いなと。ZZトップみたいなブギー。
「Everybody's Laughing」も結構良い。これはファンキーですね。アウトロあたりのバックコーラスがなかなかアツい。
「The Pimp And The Whore」はEPにも入ってました。これも割と好き。
エンディングの「Blown Away」はソロとかボウズ&モーリーに入っていてもおかしくない、と思いきや、中間のリフがサンダーっぽい。
とまあ、好きな曲もあるんですが、やっぱり全体的に印象は薄め。キラーチューンが1曲あれば違ったのかも。サンダー的にはそれが「Loser」だったのかもしれないけど、僕には刺さらなかった。
「Loser」は2003年5月にシングルカットされ、全英48位となかなか検討したので、まあ選択としては間違ってはいなかったのかもしれません。
さて、実はこの時点では「期間限定」の再結成という触れ込みでした。
僕はライナーノーツが大好きなんですが、それは当時の空気感がそのまま真空パックされているからです。今となっては、このアルバムは再結成第一弾のアルバムだなと思って聴いてしまうんだけど、ライナーを読んでいたら、確かにあやふやな再結成だったなと改めて思い出しました。
伊藤政則さんが書いたライナーには「期間限定という制限付きでありながらも」とか「どういう形であれ再結成が長い期間続き、なし崩し的にそれが既成事実となって活動を続けてしまう、そんなことを願っているファンも多いのではないだろうか」と書いてある。大森庸雄さんのライナーでも「完璧な復活なのかどうかはわからない」と書いてある。ダニーも「永久的に再結成したわけではない」と言っていたようです。基本的にはダニーが他の仕事もあって忙しかったので、そういう言い方になっていたんだと思いますが。
しかしながら、結局「なし崩し的に」2009年の再解散まで4枚のアルバム、多くのEP/ライブアルバム/映像作品をリリースした、というのが歴史の真実。これだけ多くの作品を出してフツーに活動していたものだから、再結成の時の空気感なんてすっかり忘れてました。
続く。