木曽さんちゅうのYoutube見ていたら「Slip Of The Tongue」の話をしていたので、ちょっと書きたくなった。
80年代後半〜90年代初期のBURRNで大物バンドのアルバムで賛否両論作と評価されることが稀にあった。当時の自分はどう思っていたか、今聴くとどうなのか?
賛否両論ってのは基本的には否の意見が多いと思う。
Slip Of The Tongue / Whitesnake (1989)
木曽さんちゅうさんは結構いいアルバムみたいな感じで評価していたけど、私の結論から言うと否ですね。全然良くない。100点満点の20点くらい。
このアルバムと比較されるのはこの2年前にリリースされた「Whitesnake(サーペンス・アルバス)」というアルバムになる。
ホワイトスネイクはもともとハード・ロックをやっていたけど、1984年までは割と地味なハード・ロックをやっていた。
BURRN的に言うと「ブルーズ・ベースのハード・ロック」ってやつですね。
使っているコード数が少なく(3 or 4)、オーソドックスなコード・プログレッションのハードロックを「ブルーズ・ベースのハード・ロック」と呼ぶんだと思われます。地味なハード・ロックと言っても良いかもしれない。
そこにジョン・サイクスが加入して派手な音作りになるが、それ以後を確変ホワイトスネイク、それ以前をオールド・ホワイトスネイクと呼ぶことにする。
オールド・ホワイトスネイクの代表曲といえばこれ。
Fool For Your Loving (1980)
www.youtube.com
これは名曲ですね。地味かもしれないけど名曲。
地味路線で6枚(ミニアルバムいれると7枚)作ったあと、カヴァーデイルは大改革に乗り出す。
1984年にリリースされた「Slide It In」をアメリカ向けにリミックス。その際に数曲をジョン・サイクスのギターに差し替える。ただ、このときの演奏にサイクスの存在感はそこまでない。あくまで客演という感じ。
サイクスが存在感を出し始めてからが確変ホワイトスネイクの始まりだった。
1987年に「Whitesnake(サーペンス・アルバス)」がリリース。
これは曲作りからアレンジに至るまでサイクスがガッチリ食い込んで作ったアルバムだということは、その後のサイクスのリーダー作(ブルーマーダー等)を聴けばすぐわかる。
それまでのギタリストはボーカルの裏では基本的にはパワーコードで刻んでいただけだけど、サイクスは細かいリックで構成していく。ランディ・ローズやジェイク・E・リーなど、オジーのバンドのギタリストもそうだったが、元をたどればエディ・ヴァン・ヘイレンの影響だろう。
サイクスと言えばゲイリー・ムーアを師匠と仰いでいることが有名だが、エディ・ヴァン・ヘイレンのファンだということはあまり知られてない気がする。
ギターサウンド、ソロもそうだが、こういうアレンジ面での貢献もかなり大きい。
このアルバムが死ぬほど売れまくった。パープル・ファミリーがリリースした中でも最大のヒットになった。
で、その次、1989年にリリースされたのが、このアルバム「Slip Of The Tongue」になる。
ギタリストはスティーブ・ヴァイに変更。
当時はスティーブ・ヴァイのテクニカルなギターがホワイトスネイクに合わない、ヴァイが派手に弾きすぎ、ヴァイが戦犯!とか言われてたけど、違うと思う。
ヴァイ以前に単純に曲が弱すぎる。全部弱い。
自分の基準としては曲ありき。まず第一に曲が良くないと聴く気がしない。いくら演奏が凄くても、曲が良くないと意味がない。
アルバム1曲目、アルバム同名のタイトルトラックは1曲目ということもあり期待するけどあまりにも凡庸過ぎる曲で、サビにフックがない。というか曲自体にフックがどこにもない。
さらに「Judgement Day」はZep路線だけど、同じ路線なら「Still Of The Night」には敵わない。一番良い曲が「Fool For Your Loving」というセルフカバーってのも。
ただ、ホワイトスネイクの歴史を鑑みると、これが平常運転だと思う。
1987以前のホワイトスネイクもアルバムの中に良い曲が1,2曲、あとは凡庸な曲というのが平常運転。出来不出来の差が激しい。
そう考えると「Slip Of The Tongue」は平常運転で「サーペンス・アルバス」は異常個体だったと言っても良いのかも。
ディオとかオジーもそうだけど、ボーカリスト主導のバンドはギタリストに作曲・アレンジがかなり左右される。
カヴァーデイルも然りで「サーペンス・アルバス」はどう考えてもサイクスの影響が大きい。個人的に、「サーペンス・アルバス」はサイクスのアルバムであり、ボーカルにカヴァーデイルを迎えたって方がしっくりくる。それは多分カヴァーデイルも感じていて、それでジョン・サイクス他、1987年のメンバーは全員クビにしたのかなと思う。
それで、クビにした結果が元に戻ってしまった。一応エイドリアン・ヴァンデンバーグが曲作りのパートナーになっているけど、曲調から言ってメインはカヴァーデイルだろう。それにスティーブ・ヴァイが装飾も施しているけど、仮にヴァイでなかったら、ただの地味なアルバムになっていただけだと思う。
「サーペンス・アルバス」の次になるのでどうしても比較されるのは避けられない。
そして、「Slip Of The Tongue」はミキシングも良くない。ギターは派手だけど、音圧がない。全体的に音にガッツがないし、ボーカルにリヴァーブが多すぎる。「サーペンス・アルバス」は分離が悪いしローファイかもしれないけど音にガッツがあった。
1年くらいラグがあるが、ヴァン・ヘイレンも1988年の「OU812」と1986年の「5150」だと大分サウンドの傾向が違う。ヴァン・ヘイレンも「5150」の方が音が良いのだ。1980年代後半特有のガッツのない音作りの犠牲になったのかもしれない。
アルバムから漏れたシングルB-Sideの「Sweet Lady Luck」が一番良い曲というのも皮肉。
オーソドックスなハードロックではあるけど、サビにフックあるし、ヴァイっぽいギターも素晴らしいし、ボーカルも良い。
なんでこれオミットした?
「Slip Of The Tongue」みたいな地味曲じゃなくて、これが1曲目だったら印象が変わっていたかもしれない。