ロニー・ジェイムス・ディオとリッチー・ブラックモアを結びつけた曲が「黒い羊」こと「Black Sheep of the Family」です。
ついこの間、元NGT48の山口真帆さんが同名の「黒い羊」を歌って話題になっていましたが、「黒い羊」=「Black Sheep」は厄介者、という意味です。
リッチーの場合は、Deep Purpleのメンバーにクォーターマスの「Black Sheep of the Family」のカバーを演りたい、と言ったら却下されて、じゃあエルフの面々とやるか、という経緯になっているわけです。
オリジナルの(と言われている)「Black Sheep of the Family」は、クォーターマスというバンドで、このバンドはリッチーの古くからの友達、ミック・アンダーウッドがいたバンドで、そのミック・アンダーウッドはクォーターマスの前はエピソード・シックスにおり、エピソード・シックスには後にパープルに加入するイアン・ギランとロジャー・グローヴァーがいました。
で、このバージョンですが、これが結構なんというか、70年代初期特有の、ルーズなんだけど別に跳ねてないリズム隊(悪くいうとあまり上手くない)にヘヴィなアレンジの演奏が乗るという代物。メロディ自体はポップなんですけどね。
一方レインボーのカバーバージョンは、ギターリフこそ、この頃のリッチーお得意の「You Fool No One」とか「Still I'm Sad」みたいな感じですが、軽やかでちょっと跳ねたアレンジ。イントロも「You Fool No One」のような16ビートのカウベルが特徴的。ゲイリー・ドリスコールはエルフの頃からこういうパターン得意みたいですね。
ここにリッチーがいるとはいえ、ほとんどエルフの演奏。エルフ自体ちょっと泥臭いというかスワンピーな演奏が特徴的なのでそうなったんでしょう。ちなみにエルフはアメリカのバンドです。確かにアメリカンな演奏なんだけどリッチーのギターのせいなのか、国籍が不明になってる感あり。個人的には馴染みもあるし、一番このバージョンが好きですね。
ただ、第3期パープルの末期は、デヴィッド・カヴァーデイルとグレン・ヒューズの黒人音楽嗜好が強くなった時期で、それが気に食わなかったリッチーがカバーしたこの曲が、オリジナルよりも若干黒っぽいスワンピーなアレンジなのは不思議というかなんというか。
で、その後、オリジナルをロニー・ジェイムス・ディオと書くわけですが、より中世的でハードロック寄りの曲にシフトしていき、泥臭くスワンプな曲は影を潜めます。なので、「Black Sheep of the Family」は割とエルフの特徴を活かしたアレンジにして気分良くさせておいて、「銀嶺の覇者」「16世紀のグリーン・スリーブス」は、リッチーのやりたかったアレンジにした、という妄想が芽生えます。結果、泥臭い演奏が信条だったエルフは、ロニー・ジェイムス・ディオ以外クビになり、スワンプのかけらもないコージー・パウエルが加入するのです。でも、コージー・パウエルもジェフ・ベック・グループの時はちょっと黒っぽい演奏してたんですけどね。
さて、「Black Sheep of the Family」はいろんなバージョンがあります。
レインボーによる2019年の新録バージョン。跳ねた感じは消え失せ、タイトなリズム隊で、いかにも90年代以降のリッチーっぽいアレンジとなっています。最初のカバーバージョンより、クォーターマスのバージョンがイメージに近いかも。
ここまではまあまあよく知られたものだと思いますが、以下の2つはYoutubeがなかったら聴くのも困難です。
ファット・マットレスという、ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンスのノエル・レディングが在籍したバンドで、1970年にシングルのB面としてリリース。浮遊感たっぷりの霞んだフォーキーなアレンジで、他とはかなり毛色が違う。メロディ聴いてようやく分かるくらいのノリ。
この曲の作曲はスティーヴ・ハモンドという人なんですが、この人はこのファット・マットレスに在籍しているわけでして、結局、こっちがオリジナルなのか、クォーターマスの方が先にリリースされたのか、どっちも1970年の話なので、よくわからない。クォーターマスの方はハモンドが3曲提供しているので、クォーターマスが先で、ファット・マットレスでセルフカバーしたってことなんでしょうか。職業作家かつプレイヤーだとこういうことがよくありますね。大滝詠一しかり。山下達郎しかり。
さらに、スティーヴ・ハモンドが在籍していたクリス・ファーロウ・ウィズ・ザ・ヒルというグループでもこの曲を演奏しております。
これは発売自体は1970年なのですが、アレンジが1970年よりは多少古い感じがします。それより1年か2年前みたいな雰囲気。アート・ロックな感じでイントロはなんとなくディープ・パープルのハッシュを想起させるような感じです。第1期パープルのような音像なので1968年頃のレコーディングなのかも。だとすると一番最初にレコーディングされたのは案外これかもしれません。
おしまい。