俺の記憶ストレージ (Part 1 & 2)

溢れ出る 色の渦 巻き込む パレード デイドリーム

All This Useless Beauty / Elvis Costello & The Attractions

エルヴィス・コステロと言うと、パンク/ニューウェーブの括りだった初期のアルバムか、「She」辺りが紹介されることが殆どですが、僕の中では1996年発表の「All This Useless Beauty」の存在感が高かったりするのです。あまり紹介されないこのアルバムを紹介してみたいなと。

 

All This Useless Beauty (1996)

個人史としては、1996年には既にコステロ初期5枚は聴いており、このアルバムや前作「Brutal Youth」、前々作「Juliet Letters」もカバーアルバム「Kojak Variety」も存在は知っていたが、スルーして聴いていなかった。聴いたのは、自分の中で再びコステロ熱が盛り上がった5年後の2001年頃。初めて聴いた時は地味だなぁ・・・バラード多いし・・・、と思ってしまい個人的評価としてはそれほど高くなかった。しかし、2度、3度と聴いていくうちにこれは傑作ではないかと思いました。

どこかのブログでこのアルバム評を読んだ時に、「ツボを心得た演奏、スタジオ・ミュージシャン誰だろう?」と書いてあったが、このアルバムの名義は「エルヴィス・コステロ&ジ・アトラクションズ」。つまり基本的にはアトラクションズのメンバーで演奏している。しかし確かにいつものアトラクションズの演奏とはちょっと違う。手数が多いピート・トーマスのドラムは控えめで非常に抑えたプレイだし、指板を縦横無尽に動きまくる、時にはトリッキーなブルース・トーマスのプレイも抑えめ。コステロ自身によるギター・プレイも前作と比べれば音数が少ない。その代わりに特徴的なのがスティーヴ・ナイーヴの鍵盤プレイ。ピアノ、エレピからその他カラフルなキーボードの音色が特徴的です。その代わり初期アトラクションズを印象づけていたVOXのコンボオルガンのチープな音色は使っておらず(これはこれで好きなんですが)、上品な演奏に聴こえます。そしてコステロ自身のボーカルですが、これが丁寧でものすごく上手い。おそらく「Juliet Letters」で弦楽四重奏と共演したことで歌い方を意識的に変えたのだと思います。このアルバムの後のバート・バカラックとの共演盤の「Painted From Memory」もものすごく上手いです。初期のアルバムを聴いても歌が上手い、という感想は持てなかったのですがこのアルバムを聴くと上手い人なんだなと再発見させられました。XTCのアンディ・パートリッジ曰く「Painted From Memoryは、コステロはお父さん(ロス・マクマナス=ビッグバンドで歌っていたミュージシャン)の様に歌っている」とのこと。1996年はコステロ42歳。この頃ようやく父親に歌い方が似てきたということなんでしょうか。

 

コステロが手掛けるジャンルはそもそも多岐に渡りますが、基本的にアルバムごとにカラーがあります。このアルバムはジャズ、とかこのアルバムはルーツミュージックとか、このアルバムはニューウェーブ的とか。しかしこのアルバムは珍しく一枚の中にいろんな曲調が存在します。バラードメインですが、カントリー、アメリカ南部系、ジャズロック、クラッシック系、ミニマル風などなど。それでも統一感があるのはやはりアトラクションズのツボを抑えた演奏とキラキラしたキーボードプレイの賜物でしょう。作風が多岐に渡る作家的なアルバムになっていのは、そもそも他のミュージシャンへの提供曲を集めたからだそうです。とは言え実際にレコーディングされたのは4曲だけ。これをセルフカバーアルバムとするのは無理があるのですが、発売元のワーナーはセルフカバーアルバムとして販促を行い、コステロの不興を買います。一人のリスナーとして言わせて貰えば、曲が良いのでセルフカバーみたいなキャッチフレーズなどなくても良かったと思います。結果的にこれがワーナー・ブラザースでリリースした最後のアルバムとなりました。最後にして最高傑作でしたが売上はそれほど高くなかったようです。

 

The Other End of the Telescope

The Other End of the Telescope

The Other End of the Telescope

エイミー・マンとの共作。1曲目が6/8のバラードというのはコステロにしては珍しいです。1988年、エイミー・マンがティル・チューズデイ時代に発表済み。とにかく美しいバラード。エンディングは天から一億の音符が降ってくるようであります。

 

Little Atoms

Little Atoms

Little Atoms

通常のベースプレイとは別の、シーケンスフレーズ化したベース音が最初から最後までループしていて、これがミニマル・ミュージック的な雰囲気を出しています。コステロは2曲目に実験的な作品を配置することがありますね。「Let Him Dangle」とか「Hurry Down Doomsday」とか「Spooky Girlfriend」とか。映像作品「Live: A Case For Song」のDVDではこの曲が1曲目でしたが、実は2曲目。VHS版はオープニングが「Accidents Will Happen」、次がこの曲。2曲目の方が合っている気がするのでDVD版も正しいランニングオーダーにして欲しい。


All This Useless Beauty

All This Useless Beauty

All This Useless Beauty

ただただ美しいバラード。これも6/8。一番最後のサビはオクターブ上げで歌ってます。「God Give Me Strength」方式ですね。僕はその最後が聴きたくて聴きます。途中で入るスティーヴ・ナイーヴの妙なテンションコードも面白い。イギリスの女性フォークシンガー、ジューン・テイバーのバージョンが1992年に先行してリリースされています。アルバム中の曲名がアルバムタイトル名になるのはこれが始めてとのこと。

 

Complicated Shadows

Complicated Shadows

Complicated Shadows

一転、ギターメインのアメリカ南部風ロック。エンディングで観客の声が聴こえますが、実はライブレコーディングとスタジオレコーディングを編集したものだそうで、エンディングはライブテイクです。つなぎ目が殆ど分かりません。「Secret, Profane & Sugarcane」でリレコされていてこちらはより南部のルーツ・ミュージックに近づいた感じのテイクです。


Why Can't a Man Stand Alone?

Why Can't a Man Stand Alone?

Why Can't a Man Stand Alone?

またまた6/8の南部系バラード。感触としてはビートルズの「Don't Let Me Down」に近いでしょうか。

 

Distorted Angel

Distorted Angel

Distorted Angel

これもまた「Little Atoms」同様、ミニマル風の雰囲気がありますね。メジャーでもマイナーでもない不思議な浮遊感のある楽曲。ミドルでメジャーコードに移行するところが良いですね。そこが聴きたくてこの曲を聴く。


Shallow Grave

Shallow Grave

Shallow Grave

後半一曲目はジャズ・ロックみたいな雰囲気です。アルバム中最もハードな楽曲が、バラードが得意だと思われているポール・マッカートニーとの共作ってのが面白いです。コステロによるダブルトラックボーカルですが、是非ポールとデュエットして貰いたい。

 

Poor Fractured Atlas

Poor Fractured Atlas

Poor Fractured Atlas

またまた6/8のバラードですが、これはどちらかというとクラッシックミュージック的な語法のメロディです。

 

Starting to Come to Me

Starting to Come to Me

Starting to Come to Me

一転、ブルーグラス&カントリー風でポップな1曲。とは言っても本格的なものではなく、ブルーアイド・カントリー・ポップみたいな感じでしょうか。ビートルズの「I've Just Seen A Face」とかそんな雰囲気。

 

You Bowed Down

You Bowed Down

You Bowed Down

この曲と「Starting to Come to Me」がこのアルバムのポップサイドを担っている2曲になります。印象的な12弦ギターのイントロを聴いて誰しもがバーズを思い出すと思います。バーズライクな曲といえば、ビートルズの「If I Needed Someone」とか竹内まりやの「家に帰ろう」とか色々ありますが、この曲はそもそもロジャー・マッギンに向けて書いた曲で、ロジャー・マッギン自身が1991年に発表済みの曲になります。コステロは本人に本人っぽい曲を書くのが上手い。ロイ・オービソンに「The Comedians」とか、最近だとダーレン・ラヴにダーレン・ラヴっぽい曲を書いてます。エンディングの逆回転ギターソロが印象的。

 

It's Time

It's Time

It's Time

イントロのドラムはプログラミングによるもの、イントロが終わってからの生ドラムもループパターンですが、「Little Atoms」や「Distorted Angel」のようなミニマル的浮遊感はなく、曲展開としてはドラマチック。歌詞にハッキリとは書いてませんが「Tramp The Dirt Down」の続編だそうです。つまりマーガレット・サッチャー批判。

 

I Want To Vanish

I Want to Vanish

I Want to Vanish

エンディングにバラードというのはコステロに多いですね。古くは「Get Happy!」の「Riot Act」、「Imperial Bedroom」の「Town Cryer」、「Migthy Like A Rose」の「Couldn't Call It Unexpected No.4」などなど。今回のクロージングバラードは「Brutal Youth」の「Favorite Hour」とか「The Juliet Letters」の「The Birds Will Still Be Singing」の様なクラシカル路線。演奏はスティーヴ・ナイーヴのピアノとブロドスキー・カルテット。ジューン・テイバーのバージョンが先行して1994年にリリースされています。コステロお気に入りの曲で、アンネ・ゾフィー・フォン・オッターとの共演アルバムでもカバーしています。

 

 

All This Useless Beauty

All This Useless Beauty

 

  1. The Other End of the Telescope
  2. Little Atoms
  3. All This Useless Beauty
  4. Complicated Shadows
  5. Why Can't a Man Stand Alone?
  6. Distorted Angel
  7. Shallow Grave
  8. Poor Fractured Atlas
  9. Starting to Come to Me
  10. You Bowed Down
  11. It's Time
  12. I Want to Vanish