モータウンという単語は、英ロック視点からすると、ビートルズをちょっと掘ると出てくる単語なんですね。
ビートルズが赤盤・青盤で終わっちゃう人(90年代はじめに多かった)とか、なぜか初めにアンソロジーを買っちゃう人は知らないかもしれないワードですが、ビートルズをちょっと調べていれば普通に遭遇するワードです。
ビートルズを聴き始めた頃に買った本には、「Please Mr. Postman」「Money」「You've Really Got A Hold On Me」がモータウンの曲で(今気づいたけど全部2nd)、オリジナル曲にも多分「Tell Me Why」あたりはモータウンを意識して作ったんじゃないかなと。モータウンの全盛期は60年代の中盤あたりなので、ビートルズが目をつけたのは結構早かったんじゃないか。ちなみにオリジナルのマーヴェレッツの「Please Mr. Postman」は1961年。バレット・ストロングの「Money」は1959年。スモーキー・ロビンソン&ミラクルズの「You've Really Got A Hold On Me」が1962年。「With The Beatles」が1963年。
自分はビートルズからエルヴィス・コステロに興味が移ったときもまたモータウンが出てきたんですね。「Get Happy!!」はモータウン&スタックスを元ネタにして書いたアルバムで、このアルバムを聴いて、自分はモータウンっぽいのがなんとなく好きなんだなぁと意識したわけです。
で、しばらくしてスティーヴィー・ワンダーを聴き始めた時に、本家のモータウンに触れるわけです。ただ、スティーヴィーの3部作「Talkin' Book」からの三部作と「Key Of Life」から入ったので、所謂「みんなが思い浮かべるモータウン・サウンド」ではなかったのです。スプリームスの「恋はあせらず」が、所謂モータウンサウンドかなと。でも、スティーヴィー・ワンダーのそのあたりのアルバムはそういうサウンドではない。これよりもっと前の60年代後半の作品はモータウンっぽいのですが。
というかスティーヴィー・ワンダーはすでにモータウン云々の垣根を超えていたので、モータウン聴いてみようと思って聴く感じではないですね。はっきり言って。なので、アルバムのレーベルみて「あ、これってモータウンだったんだ」みたいな感じです。
で、モータウンっぽいのはなんとなく分かった状況ではあったものの、きちんと聴いてないや、と思って、ちゃんと聴かないとなと思って買ったのがモータウンのコンピレーションで、1998年に出た「Motown 40 Forever」で、たしか2001年とかそれくらいに買った記憶があります。
それ以後自分は、スモーキー・ロビンソン、アイズレー・ブラザーズ、マーヴィン・ゲイ、ジャクソン5などの有名なモータウン勢は一通り聴いたわけなんですが、ただ、モータウンの歴史としてはほとんど何も知らない状態で、単にデトロイトにあったからモーター・タウンでモータウン、ってことしか知らなかったので、丁度良いので見てみようと見に行ったのがこの作品。
上映されていた映画館は札幌の狸小路のハズレにあるシアターキノ。
「ビートルズとローリングストーンズが憧れた」というポスターの煽り文句。「ザ・フー」も入れてあげて!
実は職場から歩いて2分くらいの場所だったりします。これのレイトショー(ちょっと安い)に行ってきました。ちなみにシアターキノに来たのはおそらく25〜6年ぶりくらいで、最後に見たのは「バック・ビート」だったと思います。ビートルズの映画でスチュワート・サトクリフが主人公のアレです。
結論から言うと結構面白かった。
創業者はベリー・ゴーディなんですが、この人、もともとはジャズレコード屋をやっていて、ジャズを売っていたらしんですが、当時売れていたのはブルースだったそうで、ベリーいわく「ブルースなんて何聴いても全部同じじゃん」なんて言うんですよね。僕はここで掴まれましたね。「ああ、言っちゃったよ」と。特に古いブルースはそうで、でもそれは「日本人だからそう聴こえる」とか「ブルースが日本文化に馴染みが薄いから」だと思ってたんですが、アメリカ人、しかも黒人であるベリー・ゴーディがそんなことを言うとはちょっと驚きと同時に笑ってしまったのです。確かにブルースはコード進行がほぼ同じなので、まあ全部同じに聴こえるよな、と。やっぱりそうなの?と思ってしまった。
で、ベリー・ゴーディはジャズレコード屋では生計を立てられなくて、出稼ぎに行くわけです。デトロイトといえば自動車産業が盛んだというのは中学社会で習ったとおり。ベリーもフォード社に働きに出るんですね。そこでフォード社のシステマチックな会社経営に感銘を受けて、音楽にもこれを適用できないか、ということで、モータウンレコードを作ったそうです。
これもちょっと驚きで、割と適当にやってると思ってたんですよ。モータウンって。そうじゃなくて、ちゃんと品質管理して、育成もやって、スカウティングもやって、なんかベースになったはずの車業界とは微妙に違うんけど、野球チームを運営するような感じに似ているなと思いました。
ベリー・ゴーディにとって生涯の友がスモーキー・ロビンソンだ、ってのもなんかグッと来ましたね。この二人が一緒にインタビューに答えるシーンがあって、カメラの前で賭けをやったりと結構微笑ましい。調べてみたら、ベリー・ゴーディはもう90才を超えていて、スモーキー・ロビンソンも80才。でもなんか二人が喋っているのを見てると中学生みたいでした。
貴重映像なのかどうかは僕には良くわかりませんでしたが、10代の頃のスティーヴィー・ワンダーの映像は衝撃的でしたね。天才って感じで。同じくジャクソン5のオーディション?みたいな映像もあったんですが、それまた衝撃で。マイケル・ジャクソン。見た目はただの子供なんですが、もう天才。
あとマーヴィン・ゲイの「What's Going On」が多重録音されていく描写があったんですが、それも貴重な音源っぽい感じで・・・。音源としてはリリースされてるのかな?僕には良くわかりませんが。
あとラストのモータウンの社歌。これが最高に面白かった。今どき、日本の会社でも社歌なんてねーよ、と思うのですが、モータウンに社歌があったんですね。インタビュアーがそれについて聞くと、当時の社員とか所属したミュージシャンはみんなうろ覚えなんです。「ああ、社歌、あったよね。どんなんだっけ?」みたいな。ちょっと恥ずかしそうな感じ。小馬鹿にしてそうな感じでみんな言うわけです。ちょっと歌ってみても「いやいや無理無理」みたいな感じ。だけど、同じことをベリー・ゴーディとスモーキー・ロビンソンに聴くと二人ともノリノリで歌い出す。ハモりながら。このシーンがこの映画のハイライト(笑)。
ベリー・ゴーディはモータウンの社長で、スモーキー・ロビンソンは副社長だったので、社歌に対する思い入れは相当あったんだろうし、なにやらスモーキー・ロビンソンが作った曲なので、思い入れがあったんだと思う。この温度差が面白い。
そういえばニール・ヤングも元モータウンとしてインタビューに答えているんだけど、ニール・ヤングがモータウンなんて知らなかったし、全然モータウンっぽくないから驚きました。
で、最後はマーサ&ザ・ヴァンデラスの「Heat Wave」でオーラス。時間を置いてもう一回見たいなと思わせる作品でした。NHK BSとかでやってくれないかな?
最後に有名どころばかりで恐縮ですが、私の好きなモータウンの楽曲を。
Money / Barrett Strong (1960)
Please Mr. Postman / The Marvelettes (1961)
Stubborn Kind Of Fellow / Marvin Gaye (1962)
You've Really Got A Hold On Me / Smokey Robinson & The Miracles (1962)
Heat Wave / Martha Reeves & The Vandellas (1963)
Tracks Of My Tears / Smokey Robinson &The Miracles (1965)
My Girl / The Temptations (1965)
You Can't Hurry Love / Supremes (1966)
This Old Heart of Mine / The Isley Brothers (1966)
I Was Made to Love Her / Stevie Wonder (1967)
I Want You Back / Jackson 5 (1969)
What's Going On / Marvin Gaye (1971)
Love Having You Around / Stevie Wonder (1972)
Superstition / Stevie Wonder (1972)
Let's Get It On / Marvin Gaye (1973)
I Wish / Stevie Wonder (1976)