2018年リリース。
前作「Wise Up Ghost」からはかなり時間が経って5年。ワーナーに移った時も、ユニバーサルに移った時も、こんなにインターバルは無かった。だけど、活発に活動していたのでこんなに空いていたこと自体が驚きだった。
2013年末には来日公演。2015年には自伝とそのサントラ?的なベスト盤というかアンソロジー的なアルバムのリリース。 2016年ソロで来日。その合間を縫ってライブやったり、シングルを出したり、ボブ・ディランのThe New Basement Tapesをやったり、ダーレン・ラブに曲書いたり等々。
ニューアルバム制作は、2017年に、インポスターズと「Imperial Bedroom」の曲を演奏するツアーをやって、このメンバーでアルバム作ろう!となったのがきっかけらしい。曲はコステロ単独作もあれば、バート・バカラックとの共作やキャロル・キングとの共作もある。
そして、リリースから1年後、このアルバムは、グラミー賞「最優秀トラディショナル・ポップ・ボーカル・アルバム」を受賞するのですね。トラディショナル・ポップ・ボーカル・アルバムとは何でしょうね?
グラミー賞の授賞式が好きな人っていますけど、普段は全然見たいと思わないんですよ。コステロが出るなら見るかなぁって感じですけど(まあ、見てないですけどね)。
アルバムとしては、本人は「Imperial Bedroom」と「Painted From Memory」のパッションが云々と言っています。全体的に言うと、メロディのきれいな曲をインポスターズの演奏で纏めました、というアルバム。
このアルバムの前が5年前のヒップホップによせた「Wise Up Ghost」で、その前がアメリカーナ志向の「National Ransom」、「Secret, Profane & Sugarcane」、その前がロックな「Monofuku」ってことを考えると、コステロ史的には、たしかに「トラディショナル・ポップ・ボーカル・アルバム」かもしれない。
「Imperial Bedroom」っぽいのは数曲だけと思われるかもしれませんが、「Imperial Bedroom」って「...And In Every Home」の印象がやけに強いんですよね。この曲の印象とジャケットで「サージェント・ペパーズ」みたいと思ってしまうんですが、全体的には実はそれほど「サージェント・ペパーズ」っぽくない。このアルバムも、それ系はせいぜい2曲で、あとは綺麗なバラードとかポップスとか、人によりロックと表現する曲もある。全体的にはAORとかMOR的なアルバムなんじゃないかな?
個人的な好みからすると、最近AOR/MOR、ソフトロックみたいなものばかりを聴いていたのもあって、ド直球ストレートみたいなアルバムでした。
そういう意味で言うと、確かに「Painted From Memory」に近いかもしれない。
- アーティスト:エルヴィス・コステロ & バート・バカラック,バート・バカラック,エルヴィス・コステロ
- 出版社/メーカー: マーキュリー・ミュージックエンタテインメント
- 発売日: 1999/07/07
- メディア: CD
「Painted From Memory」は発売から4年後に聴いたんです。リリースされた1998年は個人的にコステロをお休みしてた時期で、全然聴いてなかった。再び聴き出したのが2001年のリイシューの時期で、その翌年に「Painted From Memory」にようやく手が伸びて聴いたらぶっ飛びました。まあ、ぶっ飛ぶという言葉がこういう音楽に適切かどうかは分からないのですが、とにかく、こういうMORというか、ポピュラー・ミュージックみたいなものをロクに聴かずに「自分の好きな音楽とは違う」と毛嫌いしてたことを恥じました。これがキッカケでバカラックのコンピを買って、あれもこれもバカラックだったか、と感心ばかり。
バカラックに出会うまで、ロック一辺倒でビートルズが至高みたいな考えだったんですが、これを聴いて少し考えが変わったみたいなところはあります。世の中にはもっと聴くべき音楽がたくさんあったなあ、と思ったのが「Painted From Memory」というアルバムでした。
当時のアルバムの評価だと、バカラックのポップスとコステロの刺が合わないという声もあったみたいだけど、「パンクのコステロがなんでバカラックと組んでるんだよ」みたいな単なる先入観で言ってるだけじゃないかなあ。あるいはダークな一曲目しか聴いてないか。とにかく「Painted From Memory」は傑作だと思います。
「Painted From Memory」は全般同じテイストで制作されてましたが、「Look Now」はポピュラーミュージック寄りのメロディで統一してるけど、アレンジは多彩でビートの強い曲もある。そういう意味で言うと「Imperial Bedroom」に近い気もする。発売当初はどっちにもあまり似てないという声もあって、自分もそうかもなぁと思ったんだけど、改めてじっくり聴くとやっぱりコステロが言う通りかもしれないなあと思った次第。
・Under Lime
曲調は違うけど、メロディの質とか展開の仕方は「Pony St.」とか「No Hiding Place」に近いかなと。アレンジは「Imperial Bedroom」に一番近い感じがします。木管/金管楽器の入れ方とか。Queenばりのバックコーラスも新鮮。バックコーラスはコステロとファラガー兄弟の3人とのこと。
・Don't Look Now
バート・バカラックとの共作。曲:バカラック/詞:コステロ、のようです。バカラックの明るいサイドの曲。意外と短い曲で、あっさり終わるのが良い。
・Burnt Sugar Is So Bitter
キャロル・キングとの共作で、1999年からある曲。ようやく音源化されました。女性コーラスの入るあたりから最後のサビまでがコステロっぽくないから、そこがキャロル・キングなのかなと勝手に思ったり。それにしても共作しているのがバカラックとキャロル・キングってのが凄いなあと。ちなみに、ビートルズのPlease Please Meに入っている「Chains」はキャロル・キングの曲なので、ビートルズのメンバーより年上なのかと思ったらポール・マッカートニーと同じ年なんですね、キャロル・キングって。
・Unwanted Number
これも昔からある曲(1996年)で、架空のガールズグループを念頭に書いた曲らしいです。おそらくコステロファンには結構有名な曲だったんじゃないかなと思います。
これ結構好きで、シラ・ブラックの「Step Inside Love」みたいなの好きなんです(そういや、コステロもカバーしてました)。
・I Let The Sun Go Down
ビートルズ・・・というか、ウイングス時代のポール・マッカートニーのバラードに近いかな?
・Photographs Can Lie
曲:バカラック/詞:コステロです。メロディが完全にバカラックだなと。バカラック以外考えられないくらいのバカラック節。
・Suspect My Tears
これも古い曲で1999年にはライブで披露されています。その時はバンドアレンジですが、曲のメロディとか構成自体はその頃から変わっていないですが、今回アルバム収録するにあたって、フィラデルフィア・ソウルみたいなアレンジになっています。実はコステロとしてはなかなか珍しいアレンジで、今までこういうのはなかったんじゃないかな。最後に入ってくるファゴットのソロといい、コステロには珍しいファルセットボイスといい、かなりレアなアレンジ。
(何度か紹介しているけど)コステロの好きなアルバム500ってのがあるんですが、
そこに、フィリーソウル系は、割とあって、スタイリスティックスの「People Make the World Go ’Round」とか、ローラ・ニーロの「The Bells」(オリジナルズ/マーヴィン・ゲイのカバー、厳密にいうとフィラーではなくモータウン)とかがあったりするので、そもそも嫌いなジャンルじゃないはず。
「The Bells」は、「Punch The Clock」のリイシューでライブバージョンが収録されてますね。コステロ meets フィリー・ソウルはおそらくこの音源しか今までなかったはず。あのバージョンかなり良いんですが、YouTubeにはないし、iTunesにもないし、多分他のサブスクにもないですよね。リイシューなのに廃盤になっているので、聴きたい人は中古盤探して聴くしかない(この状況どうにかならないものか)。
ちなみに、この「Suspect My Tears」ですが、僕は死ぬほど好きで、このアルバムでも最高傑作だし、コステロの全バラードでも5本の指に入ると思ってます。
最後にライブバージョンをどうぞ。
ということで、21世紀のコステロシリーズでした(結構疲れた)。
随分書いたなあ。FFみたいな数字になってしまった。いや、あっちは15まで行っているか。近年は寡作とはいえ、20年位で14作ってのはやっぱり多作ですね。
続く