俺の記憶ストレージ Part 1&2

寂しさは琥珀となり密やかに輝き出す

職人ベーシスト ブルース・トーマスについて (Part I)

まず最初に断っておくと、巷でよく見るグレート・ベーシスト・ランキングと自分の趣味があまり合いません。なんでこんな人がランクインしているんだろう?と思う人がしばしば。

ちなみに個人的な趣味だと、こんな感じ。

 

ポール・マッカートニーとかジョン・エントウィッスルはよく見ますが、ブルース・トーマスの名前なんて全く見ません。

 

そんなある日、ふと、ブルース・トーマスが妙に過小評価されている文章を読んでしまいました。曰く、コステロの幅広いジャンルの曲をカバーするには単調で味気ないベース、とのこと。「いやいやいや、本当に聴いてますか?」と反論したくなった。

 

確かにブルース・トーマスはコステロと仲が悪かったし、再結成アトラクションズ以降は20年以上共演していないのも事実。ただ、それと演奏技術やフレージングの巧みさとは別問題であって、残された音源がブルース・トーマスのコステロ曲への貢献を物語っていると、私は思うわけです。

以前に、「ブルース・トーマスのベースが光る曲」について書こうかなと思って、5年ほどほったらかしてたのですが、機が熟したようです。今こそ、ブルース・トーマスの名誉挽回すべき時が来たようです。

 

ついでにブルース・トーマスのキャリアについて。

 

前史についてはここに詳しいです。

british-rock.salmon-news.com

 

ブルースは1948年生まれで、コステロより6歳年上。ドラマーのピート・トーマスはコステロと同じ年で、キーボードのスティーブ・ナイーブはコステロの更に4歳年下で、アトラクションズでは最年長になります。アトラクションズ参加以前は、いろんなバンドにいてキャリアの中期に加入した、みたいな感じですね。このあたり、ポリスのアンディ・サマーズにも似た感じ。ちなみにそのアトラクションズ以前は、フリー/バッド・カンパニーのポール・ロジャースとか、ホワイトスネイクのミッキー・ムーディ、イエススティーブ・ハウのようなゴリゴリのオールド・ブリティッシュ・ロックのレジェンドたちと組んでいたようで、ここからパンク/ニューウェーブオルタナに足を踏み入れるというのも中々変わったキャリアの持ち主だと思います。このあたりもなんかアンディ・サマーズと親しいものを感じてます。

 

で、並行してセッションミュージシャンとして活躍していたようです。このキャリアも幸いしてか、結構いろんなジャンルの曲を巧みに引きこなす職人となっていくわけです。

 

アトラクションズ参加の経緯はこのインタビューに詳しく書いてます。

forbassplayersonly.com

 

英語が苦手なので間違っているかもしれないけど翻訳してみました。

 

インタビュアー:コステロとはどういう経緯で一緒に仕事をするようになるんですか?

 

ブルース・トーマス:

その頃のミュージシャンはみんな「メロディ・メーカー」という雑誌を読んでて、そこには、メンバー募集の広告があった。

たとえば、
「マインドビーストはヘヴィメタルのギタリストを探している。移動は自前、あと長髪が必要」
みたいな感じで書いてある。

そんな中で、自分は「ポップ・ロックのコンボのベーシスト募集」ってのに応募したんだ。


電話をかけたら、女の子が「スティフ・レコードです」と言う。

その子は電話の後ろから誰かに指示されていたようで、「好みのミュージシャンは誰なのか」を訪ねてきた。
後ろで指示していたのは、コステロだって後から分かったんだけど。

 

「ルーモアとスティーリー・ダンだ」と答えると、「断ってくれ」と電話の後ろから聞こえてきた。
「いや、彼にチャンスを与えたほうが良いと思う」と女の子がコステロに反論したんだ。

 

で、結局、その週の週末にオーディションが設定されて、パトニー(ロンドン特別区)でやることになった。
それまでにリリースされていたコステロの数枚のシングル盤レコードを買って、ベースパートを練習したんだ。
それまでに膨大な数のセッションをやってきていたので、そんなに大変ではなかったんだけど、オーディションでは初めて聴くフリをして演奏して、それが上手くいった。

コステロは自分の履いていたフレアパンツが気に入らなかったようだけど、それがきっかけで仕事を貰えるようになったんだ。
これがアトラクションズ結成に繋がっていくんだ。

 

コステロはこのバンドをスティッキー・ヴァレンタインと呼んでいたんけど、そんなモータウンみたいなバンド名よりもアトラクションズって名前がいいんじゃない?とアドバイスしたんだ。

そういえば、その日、スティーブ・ナイーブも来てセッションしてたな。アトラクションズの活動がこの日から始まっていくんだね。

 

ちなみに、その電話の女の子と僕はのちに結婚したんだよね。

結婚生活は12年間ほどで終わってしまったけど。

 

ルーモアはグラハム・パーカーのバンドで、1stでは、ルーモアのマーティン・ベルモントが弾いていたので、好み的には悪くないと思うんですが、スティーリー・ダンが気に入らなかったんでしょうか。

いや、しかしスティーリー・ダンコステロが選ぶ500枚に入っているので違うかも。

www.vanityfair.com

 

※ これが好きらしい。

エクスタシー(紙ジャケット仕様)

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では、早速、ブルース・トーマスの職人技が光るコステロ曲を数回に分けて書きたいと思います。

まずは、アトラクションズ初期(1978〜1981)における楽曲。

 

・(I Don't Want To Go To) Chelsea (This Year's Model - 1978)

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デビュー・アルバムは、Clover(のちのヒューイ・ルイス&ザ・ニュースのザ・ニュース)をバックバンドに従えて録音しましたが、2ndアルバムを録音するにあたってパーマネントなバンドが必要になり、オーディションを行ってバンドを作ります。それが「アトラクションズ」で自然発生的にできたバンドではなく、かなり人工的に作られたバンドになります。

パンク・ニューウェーブの文脈で出てきたバンドとは言え、ピストルズ、クラッシュと決定的に違うのはその演奏技術の高さ(ただし、コステロのギターは除く)かなと思います。この辺、ポリスにも通ずるところです。

で、この初期の傑作ですが、ベースと、おそらくファズのかかったキーボードとのユニゾンで全編リフになっているというパターン。リフなのでアドリブ的な要素は皆無ですが、歴史に名を残すようなベースフレーズだと思います。コステロで有名な曲で10本の指に入りそうな「Pump It Up」もリフのようなベースですが、独創性ではこちらの方が上かなと思います。

 

・This Year's Girl (This Year's Model - 1978)

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パターン・ミュージックに近い曲で、「涙の乗車券」風のドラム・パターンに、リフに近いベースフレーズが乗っかって団子状態で突進する曲ですが、このパターンに入るまでのイントロとアウトロがとにかくカッコいい。

・Lipstick Vogue (This Year's Model - 1978)

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コステロ曲の中でも最速BPMかと思われます。ランニングベース。とにかく速い。
とはいえ、単純なルート弾きではなくAメロ前半はリフのようなフレーズ、後半はジャズ風のランニングベース。サビは一転、ルート弾きをメインとした奏法。この辺のサジ加減が絶妙。間奏はリードベースのような趣。コステロのギターはストロークがメインなので、リード楽器はキーボードとベースになるんですね。このあたり、The Whoに近いかもしれません。

 

・Lip Service (This Year's Model - 1978)

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ポップな楽曲の中ではこういうポール・マッカートニー的というか、時代はこれより大分後だけどコリン・ムールディング的な(Mayer Of Simpleton)、歌うベースフレージングが特徴的です。

 

・(What's So Funny 'bout) Peace, Love And Understanding (Nick Lowe's "American Squirm" B-Side 1978)

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今では「Armed Forces」にボートラ的に収録されてますが、ファーストリリースはニック・ロウのシングルのB面でした。
ニックの曲でブリンズリー・シュウォーツのカバーなので、オリジナルのニックのベースプレイとの対比が可能です。ブリンズリーの場合はもっと緩い感じのアレンジですが、このバージョンはピート・トーマスの強めのビートとコステロの意外と上手いギタープレイと、ブルース・トーマスのランニングベースが渾然一体となってリズムの勢いが段違いの出来。

 

・Accidents Will Happen (Armed Forces - 1979)

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ここから3rdアルバム「Armed Forces」。前作は'60s ブリティッシュ・ロックみたいなノリでしたが、このアルバムは、よりポップになりました。

 

この曲ですが、そもそも二拍でコードチェンジしまくる、ニック・ロウの言うところの「ノルウェー的」な曲なので、ベースラインもそれに釣られて動きまくるのですが、特筆すべきはサビ裏の和音ベースですかね。ベースは基本的には単音で弾くのがセオリーですが、和音で弾いてます。この技はこの後も結構出てきます。

 

・Oliver's Army (Armed Forces - 1979)

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おそらくコステロ史上最もパワーポップと言える曲がこれですが、ベースだけ聴いていても楽しい。ベースラインが歌ってます。特に好きなのがBメロの下降ラインと、ブリッジ部分のベースプレイ。ポール・マッカートニー的といえなくもないですが、ポールは歌いながら弾いている分、ここまで動くことはあまりないのかなと。
まあ、Penny Lane という例もあるけどあれは4分で弾いているので割と弾きやすかったり?

 

・Busy Bodies (Armed Forces - 1979)

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コステロは1曲の中に色んなパターンのメロディを詰め込みがちで、ニック・ロウには「コード多すぎ、ノルウェーっぽい」と注意を受けていたらしいんですが、こういうノルウェー的な曲とブルース・トーマスのベースプレイはかなり相性が良いのではないかと思います。この曲は、サビでのベースプレイが秀逸。前半はコード進行どおりのオーソドックスなプレイなんですが、中盤はウネウネとやりたい放題。後半はリフ的なベースがリードするパターン。すばらしいアレンジです。

 

・Sunday's Best (Armed Forces - 1979)

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三拍子で、個人的には Small Faces もしくは、牧歌モードに入った時のポール・マッカートニーみたいな可愛い曲だと思ってるんですが、小節の終わりで、ドラムでいうとフィルインというか、ベース的なフィルインをいちいち入れてくるのが上手いなぁと思います。

 

・Love For Tender (Get Happy!! - 1980)

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4thアルバム「Get Happy!!」が突然モータウン的なサウンドになったのは、コロンバス舌禍事件が影響しています。簡単に書くと、酒の勢いで発してしまった黒人への侮蔑発言が一大スキャンダルになり、猛烈なバッシングを受けてしまいます。コステロは酔った場とは言え、思ってもいない不適切な言葉を発してしまったと謝罪するのですが、そもそも黒人音楽を本当に聴いてきたということの証明のために、モータウン/スタックスの影響下にあるアレンジでアルバムを作るわけです。

なので、ほぼ全編そういうアレンジなのですが、それについていくアトラクションズはやっぱり只者ではないなと思います。ただのロックバンドではない。

で、ブルース・トーマスですが、もういとも簡単にモータウンを弾いてしまうんです。The Jam の曲で似たようなアプローチの「Town Called Malice」って曲があるんですが、リズムがルーズなんですよね。本当のモータウンも Jam に近い感じでジャストなリズムじゃなかったりするんですが、アトラクションズの演奏はタイトなモータウン。Bメロのランニングベースが素晴らしい。

 

・The Imposter (Get Happy!! - 1980)

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これもタイトでハイスピードなモータウン炸裂で、BPM的には「Lipstick Vogue」に匹敵しますが、あっちはロックなランニングベース。こっちはR&Bのランニングベースって感じです。素晴らしい演奏。

 

・B-Movie (Get Happy!! - 1980)

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モータウン・スタックスの流れの中、レゲエ風だったりやっぱりモータウン風だったりと目まぐるしく展開が変わる曲。プログレッシブ・モータウン

そんな中、ブルース・トーマスの独壇場のようなベースプレイを披露しています。

ブルース・トーマスはベースを始めた当初は、ドナルド・ダック・ダンに影響を受けていたそうです。「Green Onions」でグルーヴの勉強をして、それからメロディの付け方の勉強したそうです。なので、元々はロックなベーシストからスタートしておらず、こういう曲はお手の物だったのではないかと。

 

・Clubland (Trust - 1981)

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5thアルバムの「Trust」は、なにか大きなテーマとかコンセプトがあったわけではなさそうなアルバムで、今まで色々やってきたジャンルを一枚のアルバムに入れてみました、みたいなノリ。

1曲目のこれは今までのイメージから離れた感じの大人な楽曲。

これまでランニングベースや、リフ的なプレイが多かったですが、一転、シンコペーションで抑制が効いたプレイ。間奏ではちょっとしたベースソロ。

 

・Fish'N'Chip Paper (Trust - 1981)

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この曲自体、ライブで演奏されたことあるんですかね?ほぼ無視されている曲だと思うんですが、ベースプレイが素晴らしいんです。

当時仲の良かったスクイーズに近いものを感じます。もうこれはブルース・トーマスのベースを楽しむための曲であると思います。

 

以上、Part IIに続く。

 

 

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