ふと、ルーク・モーリーの「El Gringo Retro」についてきちんと書いてないなと思いましたので書きたいと思います。
まずは簡単なバイオから。
ルーク・モーリーは1960年生まれのギタリスト兼ソングライター。
1985年、25歳の時にボーカルのダニエル・ボウズらとテラプレインを結成するも商業的成功は収められず1988年に解散。翌1989年、29歳の時にダニエル・ボウズらとサンダーを結成。今度はそこそこの成功を収め、ホワイトスネイクのデヴィッド・カヴァーデイルやエアロスミスのスティーヴン・タイラー、ガンズ・アンド・ローゼズのアクセル・ローズにライブ・パフォーマンスをべた褒めされ、米ゲフィンと契約しアメリカで再デビュー。しかし、その後思ったほどの商業的成功を収められず、マーケットに失望し2000年に解散。2001年にソロ・アルバムを発表。2002年にダニエル・ボウズとボウズ・アンド・モーリーを結成。2003年、ダニエル・ボウズらとサンダーを再結成。再結成後は英国内でそこそこの人気を収めるが、ダニエル・ボウズがもう辞めたいと言い出し2009年再度の解散。仕方なくルークは若手のギタリスト兼ボーカリストのピーター・ショルダーとThe Unionというユニットを組むが音楽性が渋すぎ、イマイチ盛り上がらず。そんな中、2011年頃からなんやかんやでダニエル・ボウズらとサンダーを再々結成し、2015年、遂に再々結成アルバムをリリース←イマココ
※ ダニエル・ボウズとルークの関係性はヒロトとマーシー、またはグレン・ティルブルックとクリス・ディフォードみたいなものを想像して頂ければ幸いです。
で、2001年に唯一のソロ・アルバムとしてリリースしたのが「El Gringo Retro」でボーカルはルーク自身が取っています。バックバンドは殆どサンダーのメンバー(笑)。人間関係が拗れて解散したわけじゃないことを物語っています。
これを買ってきた時のことはよく覚えています。発売日の2001年2月9日。麻生にあった玉光堂に一枚だけ入荷されていて、あぶねー!と思いながら、さほど期待せずに買いました。家に帰ってコンポのトレイに入れて1曲目を聴いた瞬間、爽やかな風が流れました。その日から僕はこのアルバムの虜です。
El Gringo Retro
このアルバム、曲調は結構バラバラで、ウエストコースト風だったり、スウィート・ソウルがあったり、フォーキーだったり、キューバン・リズム、ラテン、ルーズなロックがあったりと、かなり作家的なアルバムと言えるが、それでも統一感があるのは、全体的に漂う60's〜70'sをリスペクトしたレイドバックした雰囲気と、アコースティック・オリジンなサウンドの賜物だろう。そういう意味で、構造としてはシュガーベイブの「SONGS」にも似ているとも言える。ただ「SONGS」と比べると、声質もありボーカルの主張はそれほど強くなく、BGMの様に聴くことも出来る。
もともとサンダー在籍中に書き留めた曲ばかりで、サンダーに合わない曲を集めたらアルバム1枚分溜まり、作ることにしたそうだ。だから基本的には当然、非サンダー的な雰囲気になる。サンダー時代にもR&Bテイストな曲はあったが、ルークの声にスーパー・ファンクな曲は合わないのでここにはないし、あからさまにハードロックな曲もない。
しかしながら驚くべきことにレコーディングメンバーはダニエル・ボウズを除いたサンダーのメンバーで録音している。正確にはギターもう一人追加、コーラス、ホーンもいるが、ベーシックなリズムはサンダーで録音している。つまり技術的にサンダーでは出来ないということではなく、パブリックイメージ的にサンダーでは出来なかったということだ。
サンダーというバンド名のせいもあると思う。音楽性とバンド名がアンマッチだというのは、いろんな人から散々言われているが僕もそう思う。このバンド名でターゲットがかなり狭まったと思う。それ故、不遇のバンドとして、逆にこちらの思い入れは強くなるわけだけども。
当時のBURRNのレビューは3人のクロスレビューで85点、77点、85点。レビューの内容としてはみなさん心地よい、と書いてありそれほど的外れなことは書いてる気はしませんが(唯一、「モータウン風」というのはなんの曲だか分からなかった)、それでも点数が低いのはヘヴィメタル雑誌だからだろう。
ちなみに、このアルバムの前身というかプロトタイプみたいなアルバムがありまして、アンディ・テイラー(元デュラン・デュラン)とルークの「Spanish Sessions」という4曲入りのEPで、1999年にリリースされています。が、自分は日本で買う方法が分からず断念。2008年頃に英Townsend Recordsでダウンロード版の販売が開始され、その時に買いました。現在はどういうわけか廃盤です(デジタルデータなのに・・)。その中に既に「Quiet Life」と「Can't Stop The Rain (Parts 1 + 2) 」が既に収録されています。アレンジの雰囲気としては殆ど同じですが、「EGR」では、一部残したままリレコされてます。
あと、2013年には突如リイシューが発表され2CD化され一部の人間(自分)は大喚起。ボーナスディスクにはデモやライブが目一杯収録されております。この調子でボウズ・アンド・モーリーもリイシューして欲しい。
Go With The Flow
これが1曲め。ウエスト・コーストの雰囲気。ドラムはドラムマシン。キーが不思議で、あまりにも低いところで歌ってます。オクターブ上で歌うとおそらく部分的にファルセットになると思います。3曲目で綺麗なファルセット出てるのに不思議です。
This World
ちょっぴりフォーキーかつセンチメンタリズム溢れる、すごく好きな曲です。ボブ・ディランの「Knocking On Heaven's Door」と言ったら分かってもらえるでしょうか。ガンズ・アンド・ローゼズのカバーバージョンに雰囲気としては近いかもしれません。サンダーのアルバム「Bang!」収録の「Love Sucks」にもちょっと似てますね。
Loving You (Is All I Can Do)
完全なるスウィート・ソウルな超名曲。これがかつてヘヴィメタル雑誌に幾度も登場したギタリストが作る曲ってのが驚きです。大体この曲でみんなノックアウトされます。アル・グリーンに曲を書くプロジェクトがあったそうで、結局流れたらしいですが、それが理由でアル・グリーンライクなアレンジなのです。似たような例にエルヴィス・コステロがロジャー・マッギンに書いた「You Bowed Down」がバーズ丸出しっていう例もあります。個人的には結婚式で使った思い出が。とにかくこの1曲だけでもいいから聴いてほしい。
Can't Stop The Rain (Parts 1 + 2)
アンディ・テイラーとの共作。フォーキーな頃のアイズレー・ブラザーズみたいな雰囲気。「Harvest For The World」に「That Lady」風のギターソロを載せた名曲。アーニー・アイズレーばりのルークのソロも良いが、アンディ・テイラーのドブロギター風のギターソロが超上手い。
This Letter
これもアンディ・テイラーとの共作で、キューバン・リズムの曲。ルークの頭にはアイズレーの「Spill The Wine」があったかもしれない。
One Drop
ここで一休み。トニー・マイヤーズというルークの古い友達との共作。「Giving The Game Away」に収録されそうな雰囲気。間奏前で突然挿入されるホーンに驚く。
Quiet Life
これまたアンディ・テイラーとの共作。レイドバックした雰囲気の曲。なんとなくだけど僕の中でのクラプトンはこんなイメージ。
A Face In The Crowd
これはサンダーっぽいなぁと思います。ダニーの声でも違和感なし。
Road To Paradise (Parts 1 + 2)
新機軸のラテンなアレンジで、聴いて分かる通りサンタナ風です。このアルバムの1年前程前にサンタナの「Supernatural」がメガヒットしたんですよね。それが頭にあったんじゃないかな。サンダーでは出来ない曲ですね。ギロがいい味出してます。この曲があるとないとでこのアルバムの印象が大分変わると思います。アンディ・テイラーとの共作。
SacredCow
これもサンダーっぽいバラードですね。
Waste Of Time
ルークはビートルズの「Revolution」みたいと言っていたけど、オアシスに似ている気もする。または70年代中盤のジョン・レノンか。サンダーにも「Rolling The Dice」みたいな似た曲はありますが、この曲はもっとルーズなノリです。
The First Day
これはポール・ロジャース、フリーですよね。「Mr.Big」みたいな。
Love Will Find A Way
優しい、とにかく優しい小品。サビ後半でルークっぽさが覗き込みます。
ここまでが本編。
El Gringo Retro
アルバム・タイトル曲は本編に含まれず、なぜか日本盤のボーナス・トラックとなりました。インストゥルメンタル。でも本編だと思って聴いても全然違和感なし。ボーナス・トラックとして理想のあり方です
以下はリイシュー盤にのみ収録されている内容。
Sleeping With The Past (unreleased demo)
ちょっとルーツ寄りというか、カントリー風味の曲です。サンダーだと「Bang!」あたりで挑戦しますが、この頃からネタとしてはあったみたいですね。アンディ・テイラーとの共作。で、「Spanish Sessions」にも収録。
You Won't Be Coming Back (unreleased demo)
ポール・ロジャースっぽいソウルフルかつブルージーなバラード。イントロの雰囲気から鈴木雅之の「Guilty」あたりも思い出したりします。
Whipping Boy (previously unreleased demo)
これもちょっとルーツ寄りの三拍子のカントリーバラード。「Once In A Life Time」でカントリー・バラードやってるからサンダーでやっても違和感無いと思います。
A Girl Like You (previously unreleased demo)
イントロだけ聴いたら、スウィートとかチープトリック的な雰囲気ですが、サビに行く頃にはイーグルス的な匂いも。テラプレインの頃の曲に似ているかも。
A Pain In My Heart (unreleased demo)
これはローリング・ストーンズをやりたかったに違いない。あと2005年に発表する「I Love You More Than Rock'n'roll」のプロトタイプにも思えます。「I Love You ~」の方が出来が良いです。
This Letter (previously unreleased demo)
これは本編にも収録されてますが、だいぶ印象が違います。本編の方はキューバンリズムですがこっちは普通のロック。細かいところのメロディも結構違います。このデモだったら普通の曲かなって感じですが、本編になると良い曲だなぁとなるのでアレンジの力は本当に大きい。
Go With The Flow (live in Tokyo 2001)
東京でのライブテイク。スタジオ盤はドラムマシンでフェードアウトでしたが、こっちは生ドラムでエンディング付き。エンディングがまたカッコいい。
This World (live in Tokyo 2001)
これも東京のライブテイク。サンダーのクリスマス・ライブアルバム「Live at Rock City」にも収録されてますが、そっちはエンディングのバックボーカルにダニエル・ボウズが居て、完全にメイン・ボーカルを食うという恐ろしいシロモノ。このテイクはダニーがいない普通のテイクです。
It Takes Two (live in Tokyo 2001)
マーヴィン・ゲイ&キム・ウェストンのカバーだが、おそらくよりロック寄りなアレンジのロッド・スチュワート&ティナ・ターナーのバージョンを下敷きにしていると思われます。
[CD 1: Original Album]
- Go With The Flow
- This World
- Loving You (Is All I Can Do)
- Can't Stop The Rain (Parts 1 + 2)
- This Letter
- One Drop
- Quiet Life
- A Face In The Crowd
- Road To Paradise (Parts 1 + 2)
- Sacred Cow
- Waste Of Time
- The First Day
- Love Will Find A Way
[CD 2: Bonus Tracks]
- El Gringo Retro (Japan bonus track)
- Sleeping With The Past (unreleased demo)
- You Won't Be Coming Back (unreleased demo)
- Whipping Boy (previously unreleased demo)
- A Girl Like You (previously unreleased demo)
- A Pain In My Heart (unreleased demo)
- This Letter (previously unreleased demo)
- Go With The Flow (live in Tokyo 2001)
- This World (live in Tokyo 2001)
- It Takes Two (live in Tokyo 2001)