俺の記憶ストレージ Part 1&2

色事を担当する色男

音圧戦争の遺跡を No Action で辿るの巻

ja.wikipedia.org

ウィキペディアより引用

ラウドネス・ウォー(ラウドネス戦争、音圧戦争や音圧競争とも)とは、録音音楽における近年の音量レベルの増加に伴って、音質やリスナーの楽しみを損なうと批判されている傾向を指す。音量を上げることは、1940年代初めに7インチシングルのマスタリングの実践で最初に報告された[1]。これらのアナログ録音の最大ピークレベルは、音源から聴取者までの間において(コンパクトディスク(CD)やコンパクトカセットなど)電子機器のさまざまな仕様に制限されていた。1990年代にはさらに大きな音量を生み出すことができるデジタル信号処理が導入され、注目を集めた。


コンパクトディスク(CD)の出現により、音楽は明確に定義された最大ピーク振幅を有するデジタルフォーマットに符号化されるようになった。CDの最大振幅に達しても、ラウドネスは、ダイナミック・レンジ圧縮およびイコライゼーションのような信号処理技術によってさらに増加させることができる。エンジニアはより頻繁に最大振幅のピークに達するまで、高い比率の圧縮を録音に適用することができる。極端な場合には、ラウドネスを上げる努力は、クリッピングおよびその他の歪みを生じさせる可能性がある。極端なダイナミック・レンジ圧縮やラウドネスを上げるための他の手段を使用する現代のレコーディングは、音質を犠牲にする可能性がある。ラウドネス・ウォーが激化し、音楽ファンや音楽誌は影響を受けたアルバムを「ラウドネス・ウォーの犠牲者」と呼ぶようになった。


CDの発売開始は1982年だけれど、普及したのは1980年代後半。
1987年に発売されたTM NETWORKの「humansystem」には「CDのダイナミックレンジをフルに活かすため一部音量が小さい部分があります」と記載がある。

「humansystem」は全体的に音量が小さく収録されている。
その分、音量が大きい部分ではそれなりに大きくなるのだけれど。
この音量の大小の幅がダイナミックレンジで、確かにこれをフルに活かそうとすると、全体的に音量が小さめになってしまう。TM NETWORKの全アルバムでダイナミックレンジが統一されていれば、特に問題はないのだけれど、このアルバムだけこういう特性なので、例えばベスト盤を作る時に音量が統一されてない印象を受けるので、このアルバムの収録曲だけ大幅なリマスタリングして音量を上げている(同時にダイナミックレンジを犠牲にしているとも言える)。
その後、2013年にリリースされたリマスター盤の「humansystem」では「普通」の音量になった。

参考までに以下が1987年盤の「Children of the New Century」。

波形が小さいということは音量が小さいということ。
全体的に音量小さめだけど、ピーク(赤)に到達している箇所もある。
TM(小室哲哉)としてはこの音量の大小を楽しんでね、という意図があった(必ずしも試みが成功とは言えないが)。

以下が2013年盤の「Children of the New Century」。

ごく普通の波形で、これが現代の(と言っても10年前だけど)標準的な波形だと思う。


さて、このラウドネス・ウォー、音圧戦争がどういう歴史を辿っていったかは、やはり同じ曲で見てみるのが分かりやすい。そこで異常とも思えるリイシューを乱発しているコステロ先生の中でも最もリイシュー回数が多い名盤「This Year's Model」の「No Action」で波形の変遷を辿ってみたいと思う。

では早速行きましょう。


1986年の US Columbia 盤


Left: -17.3283 dB
Right: -17.7078 dB
Stereo: -17.5139 dB

  • おそらく初CD化されたもの
  • 音量レベルは控えめ

www.discogs.com


1993年の Demon/Rykodisc リイシュー盤


Left: -14.7355 dB
Right: -14.4236 dB
Stereo: -14.5768 d

  • 初のリイシュー
  • 少し音圧が上がる

www.discogs.com


2002年の Rhino/Edsel リイシュー盤


Left: -10.8806 dB
Right: -10.5457 dB
Stereo: -10.71 dB

  • 二度目のリイシュー
  • 張り付いてる

www.discogs.com


2008年の Hip-O リイシュー盤


Left: -10.9841 dB
Right: -10.6485 dB
Stereo: -10.8131 dB

  • 三度目のリイシュー
  • Rhino盤ほどではないにせよ張り付いてる

www.discogs.com

2021年の最新リマスター(CD)


Left: -19.2282 dB
Right: -18.9736 dB
Stereo: -19.099 dB

  • 現時点でのフィジカルの最新リマスター
  • なぜか1986年盤よりレベル低め

2021 REMASTERED
ORIGINAL U.K. ALBUM SOURCED FROM THE ORIGINAL ANALOGUE MASTERS!

このアルバムのパッケージには、オリジナルのアナログマスターから起こした、と書いてある。

www.discogs.com

2021年の最新リマスター(サブスク)


Left: -11.0017 dB
Right: -10.6625 dB
Stereo: -10.8288 dB

  • 現時点での最新リマスター(サブスク)
  • なんとおなじ2021リマスターにもかかわらず、CDと全然違うレベルで上に張り付いている


ということで、このアルバムの場合は2008年が音圧戦争のピーク。
2021年は落ち着いているが、サブスクは別。
ちょっとおもしろいのはイントロの「I don't wanna kiss you, I don't wanna touch」はあまり音量レベルが変わらない。


個人的な感覚からすると、2014年あたりにはちょっと落ち着いてきたなぁと思った記憶がある。

エンジニア吉田保さんのインタビュー。
mora.jp

――マスタリングするにあたり、音圧(レベル)に関してのお考えを教えて下さい。

吉田:なるべく高めにしましたが曲のダイナミックス重視です。結果的に最近の一般的なマスタリングと比較すると音圧は低いのですが、その分アンプのヴォリュームを上げれば伸びやかな音を体感できるはずです。

このインタビューがちょうど2014年あたりなので感覚と近いかなと思う。