俺の記憶ストレージ Part 1&2

色事を担当する色男

21th Elvis Costello (Part IX) -「Momofuku」

2007年はリリースがなかった。2008年に唐突にリリースされたのが「Momofuku」。

 

百福(初回限定盤)

百福(初回限定盤)

 

 

2000年代は音楽を巡る状況がいろいろと変わりました。


キッカケは家庭用PCとしてWindows95の発売があったと思います。ただこの頃はまだ一般家庭に普及しているとは言い難かった。自分は今はコンピュータ関連の仕事についてますが、自分が自分用のPCを買ったのは1999年頃。普及率が上昇するのはこの辺りから2003年頃。

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パソコンが音楽業界にどう作用するのか、自分はこの時点で予測できませんでしたが、まず、CD-Rというモノが出てきて、MDが駆逐されます。
それまでCDは友人間の貸し借りか、レンタルショップでのレンタルで、カセットテープやMDにダビングしてました。これ自体は劣化コピーになるのですが、CD-Rの場合は、そのままの品質でコピーが作れます。これは画期的でしたが、これ自体は音質が劣化しないというだけで音楽業界を揺るがすほどの影響はありません。

しかし、PCの一般家庭への普及とインターネットインフラの充実と、アングラサイトとアングラ雑誌の誘導により違法ダウンロードが大幅に増えました。違法ダウンロードは大半がmp3でやり取りされていて、それは劣化コピーなので、カセットテープやMDと何が違うんだ?という人もいましたが、拡散能力が全然違います。周りの数人にコピーを渡すのと、インターネット経由で全世界にばら撒くのでは拡散力が違う。

これを危惧してレコード会社主導でCCCDコピーコントロールCD)が作られたのが2002年頃で、音悪い/自分で買ったCDですらリッピングできない/CDプレイヤー壊れた/気に食わない、などの批判で大体3〜4年くらいでこれはなくなりました。

2003年には AppleiTunes Music Store を初めて、正当な形で音楽データを売るようになりますが、Appleも購入したデータにはDRMを付けて、再生できる機器は5台まで、という制限を付けたりしています。ただ、これも2007年頃から段階的に減っていって今はもうDRM付きの販売はしてません。

個人的な話をすると、ちょうどこの頃にDRM関係の開発の業務をしていて、コピープロテクトの実装をしていたりしました。結構面倒臭いシーケンスで、もうあまり覚えてませんが、DRM解除用の鍵がプッシュで送られて来るんだったかな・・・そういうやつを実装しながら「なんでこんなにプロテクトしたがるんだろう?」と思ってました。隣にいた先輩社員に「AppleでさえDRMをやめつつあるのに、なんでこんな実装するんでしょうね。こんなの作ったってすぐなくなりますよ」と言ったら「いや、これからの時代はDRMが必要で、今後はDRMが普通になる」と断言していましたが、結局自分の方が正しかったな!

2005年には、Youtubeが出来て、これが一番影響が大きかったんじゃないかな。自分もお宝映像の数々を見つけることが出来て本当に凄いサービスが出来たなと思ったものです。Youtubeは最初から一般の人も普通に見れる正式なものとして出てきたのですが、アップロード自体は一般ユーザーが出来たので、世界中からお宝が集まってきました。自分も当時見たことがないコステロとかXTCの映像を見て興奮したことを覚えてます。ただ、その中には当然違法なアップロードもあったわけですが、これを逐一排除することは、当時のYoutubeとしてもかなり大変なことだったはず。そもそも違法ダウンロードはアングラな世界だったのが、Youtubeというメジャーなサービスの登場でよりカジュアルになるわけです。もうCD買わなくて良いじゃん的なノリになるのです。

今ではサブスクリプションサービスがたくさんありますが、それでもミュージシャン側に還元されるお金は、物理メディアやダウンロード販売に比べると格段に小さいはずで、ここで多くのミュージシャンが立場を再確認することになります。

そんな中、コステロは2007年頃に「もうレコードは作らない」宣言をすることになります。こういう背景があって、さらにレコード会社も金を出さないと言ってきたらしいので、だったらこれからはライブで生計を立てると。
※ちなみに同じ様に山下達郎もこの頃にライブに軸足を置くことに決め「Performance 2008」としてライブ活動を再開します。

一方、今まで通りCDを売る場合についても、音源そのものは簡単に手に入ってしまう時代なので、CDに付加価値を付けます。それまでもボーナス・トラック、初回限定ジャケットなどはあったけど、それはあくまでも輸入盤対策だったりとか初動を増やす作戦だったのですが、この時期になると違法ダウンロード対策としてどう付加価値を付けていくかという話になります。AKB48の誕生は2005年ですが、握手券が普通に店頭で売られるCDに付くようになったのは2008年頃から。

 

今思えば、2008年から音楽業界にパラダイムシフトが起こったような気がします。

 

そして、コステロ

コステロもこの前年にCD出さないと言っていたし、出したとしても配信中心になるのかなぁと。配信になると、ブックレットとかライナーノーツとかなくなるし、歌詞カードや対訳もない。それ自体が自分にとっては付加価値なので、CDでのリリースはしてほしいなぁと思っていた中で唐突にリリースされたのがこのアルバム。

 

なにやら、ジェニー・ルイスというミュージシャンのアルバムにコステロとデイヴィ・ファラガーとピート・トーマスが参加して、なんかいい感じだったのでインポスターズでアルバム作ろうか的な話になったらしい。

経緯としては、ちょっと「Brutal Youth」の時と似てますね。あのときは、ウェンディ・ジェイムズがコステロの曲書いてくれって頼んで、何も言わずアルバム一枚分のデモテープを渡して、それを「Now Ain't the Time for Your Tears」として録音したんですが、その時のサポートがピート・トーマス。「Now Ain't the Time for Your Tears」の全体的なテイストも荒々しい感じで、それが「Brutal Youth」に作用したんだろうなぁというのは想像に難くない。

Now Ain't Time for Your Tears

Now Ain't Time for Your Tears

  • アーティスト:Wendy James
  • 出版社/メーカー: Geffen Records
  • 発売日: 1993/05/11
  • メディア: CD
 

 

アルバム・タイトルがなんで「Momofuku」かとみんな混乱していたんですが、日清食品安藤百福に捧げたらしい。労働者が気軽に食べられる食べ物を開発したということで敬意を評したとか。僕はこれを聞いてコステロのジョークを真に受けちゃったよ、と思ったんですがどうやら本当だったみたい。

 

アルバム全体としてはインスタントラーメンのように短期間で録音したという言葉どおり、ラフな感じでなんとなく「Blood & Chocolate」とか「Brutal Youth」みたいなイメージ。ロックなコステロを求めていた人には歓迎された記憶があります。

ただ、実はあからさまにロックな曲は半分くらいであとはその頃のコステロの趣味嗜好を反映した、ソウル的な曲だとかバラードも多い。その辺も「Blood & Chocolate」とか「Brutal Youth」に似てます。

ただ、そういうロックな曲じゃない曲も4ピースアレンジが基本なので、個人的には数曲でどうにもアレンジ面で消化不良な感じがしてしまって、こういう曲には違うアレンジなんじゃないかとか、珍しくコステロに注文を付けたくなったのがこのアルバム。まあ短期間で作ったから仕方ないのかもしれないけど、音が全体的に同じ感じに聴こえてしまう。なんとなくそれはコステロのギターの歪みのツブが粗いからって感じもするんですが、もうちょっとどうにかならなかったのかと思います。いい意味で言えば統一感があるとも言えるんですが。こういうところも「Blood & Chocolate」とか「Brutal Youth」に似てる。

ま、ただ、こういう荒々しいコステロはこのアルバム以降全くなくなるので貴重な音盤といえばそうなのですが。

 

・No Hiding Place

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自分が考えるロックサイドのコステロの良さがこの曲に凝縮されている。「Pony St.」を思い出します。ニック・ロウが言うところの「コード多すぎ・展開多すぎ・ノルウェーの曲みたい・ジョニー・キャッシュの曲聴いて勉強しろ」って感じの曲ですが、それがコステロの魅力。

 

・American Gangster Time

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これはやっぱりVOXコンチネンタルですね。あの音色だけで初期コステロに戻る。ただ、ギターサウンド的には「When I Was Cruel」に近いかな。このアルバムはこの冒頭2曲の印象が結構強いのでロック感がありますね。

 

・Flutter And Wow

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ソウル・バラード。スモーキー・ロビンソンみたいな。こういう曲があるので、ロックアルバムとも一概に言えないのがこのアルバム。

 

・Mr. Feathers

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「God's Comic」 みたいな。この後にリリースされる「Secret, Profane & Sugarcane」とか「National Ransom」に入っててもおかしくない曲。そう考えるとドブロとかフィドルとか足りないなぁと思ってしまうんですよ。

 

・My Three Sons

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ブラチョコのSide-Bに入ってそうな雰囲気。

 

・Pardon Me Madam, My Name Is Eve

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これもブラチョコのSide-Bにありそうな。

 

次は、「Secret, Profane And Sugarcane」という、全然違う路線のアルバム。