俺の記憶ストレージ Part 1&2

色事を担当する色男

職人ベーシスト ブルース・トーマスについて (Part II)

さて、Part II。

その前に、一応エクスキューズ。

 

自分は別に「アトラクションズの方が良かった」のような安直な懐古主義でこれを書いているのではなく、ブルース・トーマスだって、ベーシストとしてはかなり優秀だったにも関わらず、評価されないどころか、世間的に完全に無視されているのがいかがなものかと思っているわけです。

コステロと仲が悪くたって腕の良さは関係ない。むしろコステロはブルースの腕自体は評価していたはず。

1996年の秋にアトラクションズとのライブが終わった後、しばらくバンド・フォーマットでのライブはなくなり、2002年にブルース・トーマスからデイヴィ・ファラガーに変更する形で、コステロのバックバンドは「アトラクションズ」は「インポスターズ」というバンドに変わりました。

インポスターズはスティーブ・ナイーブとピート・トーマスはそのまま在籍。メンバー追加もなし。単にベーシストが変わっただけなんですが、結構サウンドが変わるんです。

デイヴィ・ファラガーのベースは、ブルース・トーマスよりももっと泥臭いというかルーツ寄りというか、オーソドックスで安定感のあるプレイだと思います。地味かもしれないが堅実。もっともポジティブな要素としては、コーラスが出来るのが大きい。しかも上手いってのが大きいですね。

アトラクションズだとコーラスが出来なかったんですよね。ブルース・トーマスが歌っているのは一応ブートで聴いたことがあるけど、正直なところ、人前で披露するレベルのものではないと思います。なので、ビートルズみたいなことをやろうとしても出来ない。例えば「No Action」はバックコーラスが重要な曲で、スタジオバージョンではコステロの低い声で千手観音の様にコーラスが入ってますが、あれをライブでやろうとすると、キーボードでコーラスパートをなぞったりと、結構苦労しています。

インポスターズはコーラス問題が解消して、時によりデイヴィ・ファラガーとコステロのダブルボーカルも出来るし、アンサンブルの幅としては確実に広がっていると思います。

というのが僕の考えるアトラクションズとインポスターズの違い。

とはいえ、派手で手数の多くメロディアスなブルース・トーマスのベースプレイもやっぱり魅力的ではあるので、どっちかを支持しろじゃなくて、どっちにも良さがあるわけです。

 それが何やら最近はレッテルを貼りたがる。こっちが好きだっていうなら、こっちのアンチだな!とかね。コステロが嫌いなブルースを好きだなんて、今のコステロを否定するのか?みたあな安直な考え。SNSが普及してから酷くなった感じがします。

 

さて、本題。


・Beyond Belief (Imperial Bedroom - 1982)

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アトラクションズは毎度毎度、コステロの多趣味に付き合って様々なジャンルの曲をこなしていくわけですが、1981年にはカントリーソングのカバーアルバム「Almost Blue」を作ります。ただ、これは上手くいってるとは言い難い。カントリーの曲なんだけどあんまりカントリーじゃないんですよね。ロックバンドがカントリーの曲を演奏しているみたいな風情。「Good Year For Roses」みたいに上手くいってるのもないわけじゃないですが。ここでの反省が後の「King Of America」の本場のアメリカンミュージシャン起用に繋がっていくんじゃないかなと個人的には思ってます。

で、カントリーをやったかと思ったら次はビートルズのエンジニアだったジェフ・エメリックを召喚して、シンプルなカントリーソングの反動なのか、コラージュ全開のアルバムを作るわけです。それが「Imperial Bedroom」。

その1曲目がこれなんですが、実は1曲目は反コラージュと言っても差し支えないほどシンプルな曲。だけどクレイジーなアレンジ。

このアレンジのアイデアは誰なんだろうか。

 ブルース・トーマスの昔のインタビューだと、コステロがベースラインのアイデアを出すことが何度もあった、と言ってましたが、やっぱりコステロディレクションなんでしょうか。

 「Imperial Bedroom」は中期ビートルズに寄せたというのが一般的な評価ですが、これが1曲目。このアレンジの元ネタは一体何なのか想像もつかない。こういう誰もやってないことをやるというのがビートルズ的と言えばそうなのかも。

演奏もクレイジーですが、ボーカルもなかなか。Aメロはひたすらマイクの前でボソボソつぶやいているようなボーカル。これ、マイクと増幅器がないと成立しないですよ・・・。

ベースラインに関しては、イントロ〜Aメロ〜サビ〜2回めのAメロ〜大サビに至るまで、ずーっと全音符(いわゆる白玉)で弾いています。まずこれが驚き。このアイデアがブルースによるものなのか、コステロなのか、はたまたジェフ・エメリックなのかは定かではないですが、手数の多さが際立っていたブルース・トーマスのプレイからするとかなり異色の演奏。

で、同じリズム隊のドラムはというと、テンポとしては若干速めの、時折16分で鳴り物が入ってくる変則8ビートで、結構細かいリズムパターン。このせいもあって、ベースだけの全音符がかなり気になる。こういうポリリズムはこの曲以外では聴いたことがない。キーボードとドラムだけやたら盛り上がるんだけど、ボーカルはウィスパーボイスでベースは寝ぼけながら弾いているような風情。

で、ラストの大サビの中盤になって突然思い出したように8分で刻み出すんですね。「あんた、今起きたのかよ?」みたいなプレイ。この8分で刻み始めた時の高揚感はなかなかに素晴らしいものがあります。ここからまだまだ盛り上がりそう!と思ったら突然フェードアウトしてしまうという謎構成。とにかくこの曲はコステロの謎アレンジの中でも5本の指に残ると思います。

ちなみにライブバージョンで聴くとフェードアウトなしで聴けるので良し。

 

・Shabby Doll (Imperial Bedroom - 1982)

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これは明確にコステロがベースラインを考えたとブルース自身が言ってます。歌のバッキング部分ももちろん素晴らしいプレイではあるのですが、個人的にはこれはもうアウトロを聴いてくださいと。

 

・Human Hands (Imperial Bedroom - 1982)

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全部で4コーラスあるんですが、最初の3コーラスは二分音符がメインのポール・マッカートニー的なベースライン。

圧巻はコステロ本人も絶賛していた最終4コーラス目。和音ベースアレンジですね。ピアノのブロックコードみたいな響き。

このアルバムって、バンドサウンドではないので、ベース以外の音を足してても特に違和感はないはずなんですが、そこを敢えてトリッキーなベースでアレンジするというのがニクイ。


・Everyday I Write The Book (Punch The Clock - 1983)

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ビートルズ的なコラージュアルバムを作った後は、またもや方針転換。この頃のコステロは世に存在する音楽のジャンルを全部やってやろうと目論んでいたんでしょうか。「Punch The Clock」はホーンセクションを導入したR&B、SOULの世界。黒っぽいのは「Get Happy!!」でもやってましたが、あちらは60年代のモータウンやスタックスに影響を受けたもの。このアルバムはより現代的なR&B、SOULに寄せています。
中でもこの曲は中々のヒットだったようで、音楽に興味のない人でも結構知っている曲ですね。

なので、コステロマニア程この曲を毛嫌いする傾向にあるんですけど。今だと「SHE」が嫌だ!みたいなもんですかね?僕はこの曲が大好きなのですが、なんで音楽以外の要素(メジャーな曲だから、とか)で、嫌いになるのか理解できない。

ベースプレイはオーソドックスなR&Bのプレイって感じですが、Aメロのバスドラとのユニゾンが心地良いです。

 

 ちなみにこの次のアルバム「Goodbye Cruel World」も同じプロデューサーで作ったのですが、コステロ的には最低のアルバムになってしまったようです。後年、自分の耳で聴いてもいかにも80's的なサウンドの古さと、アトラクションズの覇気の無さが耳につく。なぜ同じプロデューサーなのに、なぜ「Punch The Clock」よりもサウンドが貧弱になるんだろう・・・。余計な音が多い上にその音がデジタル丸出しで古いんですよね。これがアナログな音だとまた印象が変わると思うんですが。「Sour Milk-Cow Blues」なんて完全にアレンジを間違ってると思うんですけど。

80's的なサウンドだと「Spike」も「Goodbye Cruel World」と良い勝負で、「Spike」のサウンドはあまり好みじゃないんですが、なんせ「Spike」は圧倒的に曲の出来が良いんですよね。「Goodbye Cruel World」に好きな曲も無いわけじゃないですが、確かにコステロの中では最も出来が悪いアルバムだと思います。というわけで「Goodbye Cruel World」からは選出しませんでした。


・Suit Of Light (King Of America - 1986)

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失敗した1984年のアルバムを経て、今度は自分のルーツ探しのためにアメリカに飛び立ったコステロ

この「King Of America」自体はアメリカのベテラン・ミュージシャンを集めて、フォーク、カントリー、ブルースなどの泥臭いルーツミュージック(とはいえ大半はオリジナル曲)を収録した作品ではあるんですが、この曲だけちょっと異端で、ルーツ・ミュージックでもなく、演奏も他とは違って明らかに浮いている。演奏も他の曲はいかにもアメリカ録音みたいなルーズな感じなんだけど、これだけタイトでいかにもブリティッシュな演奏。

なぜかと言うと、これだけアトラクションズによる演奏だからなんですね。なので、アルバム全体としては50年代ルーツミュージックばかりの中で、この曲でふっと現代(と言っても今から見ると30年前ではあるんですが)に引き戻される。曲調も、ブレイク寸前の頃のミスチルが歌っても違和感が無いほど現代的。

もともと「King Of America」自体、半分はアメリカのミュージシャンで、半分はアトラクションズで、と思っていたらしいんですが、アトラクションズがアメリカに付いた頃には既に殆ど取り終えていて、かなり関係がギクシャクしたようです。なんで俺ら呼んだんだよ?みたいな感じでしょう。そんな状態で「Brilliant Mistake」など、数曲録音したらしいのですが、もうアトラクションズの面々はウンザリしてしまっていて、覇気がないというか、演奏もままならなかったとのこと。そんな中で「Baby's Got A Brand New Hairdo」というどうでも良い曲でウォームアップし、最終的に起死回生・面目躍如みたいな形でこの曲が録音されます。そしてこれがまた、「本当にギクシャクしてたんですか?」と思うくらいの素晴らしいテイク。コステロ本人もあの状況の中なのに、最も熱のこもった演奏だったと言っています。

で、ベースですが、アンサンブル重視の完璧なプレイ。時折ルート音から飛び出したりと遊びも十分。


・I Hope You're Happy Now (Blood & Chocolate - 1986)

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「King Of America」録音時に発生したギクシャクした関係はツアーを挟んでも晴れず、結局コステロはアトラクションズとして最後のレコードを作ることを決めます。8年間の活動の集大成として、初期のプロデューサーだったニック・ロウを呼び寄せ、初期の頃のようなラウドなサウンドで録音しました、という触れ込みなんですが、とはいえ、B面はソフィスティケートされた曲が多い気がします。

アルバム全体的にはインスタントに作ったものなので、アレンジの練り込みが足りなく、ベースラインも時間をかければもっと良いのができたんじゃないかと思わずにはいられないです。「Crime Of Paris」なんてもっと良いベースラインできたんじゃないかなー。

そんなアルバムの中でもこの曲のベースは出色の出来。

この曲は、「Goodbye Cruel World」と「King Of America」の時と2度チャレンジしたらしいのですが、上手く行かなかったようです。「Goodbye Cruel World」の時の演奏はボートラで聴けますが、覇気がないというか、これはあんまりだなーというアレンジ。「Goodbye Cruel World」の頃の空気感だとああいうアレンジになるんでしょうかね?

3度目の正直で録ったアレンジは素晴らしい出来。難産でしたが、このバージョンが残ってくれて本当に良かった。3度目のアレンジはマージービート的。ドラムパターンもマージービートでよくあるパターン。ベースは、やっぱりポール・マッカートニーが弾きそうなパターンで、「Taxman」とか「Rain」みたいなライン。

 

で、このアルバムを最後にアトラクションズは解散。コステロワーナー・ブラザースというメジャーレーベルに移籍します。
10年ほどインディーズ的なマイナーレーベルでそこそこ有名になった人が突如メジャーレーベル移籍って、マキシマムザホルモンみたいですね。

 

Part IIIは、アトラクションズ復活から、アトラクションズの完全消滅まで。

  

インペリアル・ベッドルーム

インペリアル・ベッドルーム

  • アーティスト:エルヴィス・コステロ
  • 出版社/メーカー: ユニバーサル インターナショナル
  • 発売日: 2007/09/05
  • メディア: CD
 

 

 

パンチ・ザ・クロック

パンチ・ザ・クロック