俺の記憶ストレージ Part 1&2

色事を担当する色男

201x年 某ロックフェスにて

僕は毎年あるロックフェスに通っている。今年も行く予定だ。しかしそのロックフェスのラインナップが発表された瞬間、SNSは騒然となった。

 

今年になって突然現れたステージの名は「レリジョン・ステージ」。

 

「レリジョン・ステージ」のラインナップには、大森○志(ex.サザンオー○スターズ)バンド、河口○之助(ex.○ルーハーツ)バンド、アメリカから懐かしのクリスチャン・ヘビーメタル・バンドのス○ライパーと書かれていた。

 

協賛には宗教団体の名前がずらずらと書かれていて、例年に比べかなり宗教色が強いようだ。

 

このあまりにも宗教的な内容にSNSは荒れに荒れた。「#音楽に宗教を持ち込むな」というハッシュタグで、ロックフェスの宗教化に抵抗する人たちが大挙として現れた。しかし、このムーブメントはあっさりと反論されてしまう。

 

「そもそも現代のポピュラー・ミュージックというのは、ブルース・ゴスペル・ジャズあたりをルーツにしているが、ブルースは黒人霊歌、ゴスペルはプロテスタントの宗教音楽、ジャズは西洋音楽とアフリカ音楽を融合したもので西洋音楽自体、キリスト教と密接に関係している。つまりブルース・ゴスペル・ジャズをルーツとするロックと宗教にはそもそも密接な関係があるんだ。」と言う人が現れた。

 

その後に「ロックは宗教である」と追随する人が多数現れた。さらには「ロックから宗教を除外してしまったらそれはロックではない」と言う人も出てきた。

 

さすがにそれは言い過ぎだよなぁと思いつつ、まあみんながそう言うんだからそうなんだろうなあ、宗教とロックは密接な関係があるんだな、と僕もなんとなく納得したのだった。

 

紆余曲折ありがならも、ロックフェスは無事開催されることになり、僕も当日まで楽しみにしていた。


フェス開催の日。

 

入場ゲートの様子は例年と様相が違ったようだ。入場ゲートを潜るや否や、あらゆる宗教団体が勧誘攻勢していた。

 

ある団体は「あなたのためにお祈りします。明主様と言って目を瞑ってください」などと言って近づいてくるし、またある団体は「カレー部に入りませんか」とやたら勧めてくるし、「あなたの大切な人を降臨させますよ」と言ってくる人もいる。面倒だなと思って小走りしていると、遠くから手を掲げられ勝手にお祈りされていたようだ。いやはや、なんとも。

 

そんな勧誘をうまくかいくぐってレリジョン・ステージに着く頃、ちょうどオープニング・アクトのステージの準備が終わり、演奏が始まるところだった。

 

さあ、フェスのスタートだ。オープニング・アクトがリフを弾き始めた・・・と思ったら、なぜか開始30秒程で中断してしまった。バンドのボーカルは「すみません、ちょっと時間ですので、今から西北西に向かって皆さんでお祈りしましょう。」と言う。戸惑いながら渋々お祈りをするオーディエンス。満足そうなバンド。お祈りが終わったら、中断していた曲が再開された。なんだか気がそがれるなぁ。

 

次のバンドはなんかジミ・ヘンドリックスを降臨させますとか言っている。でも演奏しないでジミ・ヘンドリックスに成りきって喋ってるだけだなぁ。なんだこりゃ。

 

なんだか妙に疲れたから、飯でも食べに行こう。しかし、飲食店らしきものが一向に見当たらない。そうだ、開場時に貰った地図で飲食店の場所を確認しよう。地図を広げると、小さい字で「フェス開催中は断食月と重なりますので飲食店等は出店致しません」と書いてある。なんてこった。僕は諦めてとりあえずその場で座ることにした。

 

しばらく経ってレリジョン・ステージに戻ると、なにやら音楽イベントではないイベントが開催されていたようだ。壇上には立派な衣装を着た偉そうな人が立っている。その人が、観客にいる男と女を交互に指さし、「はい、あなたとあなた、壇上に上がって」などと言っている。偉そうな人はあまり悩む様子もなく、次々と指名していく。最終的には100組くらいになった。何やるんだろう?新手のお見合いイベントかな?と思ったら「今から結婚式を執り行う」とその偉そうな人が言うではないか。なんでも見ず知らずの人たち同士で合同で結婚するハッピーなイベントのようだった。僕は普通に恋愛結婚したかったので呼ばれなくて良かったと思った。なんだか宗教色が強いのも考えものだなぁ。でもロック=宗教なんだから受け入れなければ、このフェスを楽しむ資格がないんだ。頭ではそう思っていても心が追いつかないのが正直なところだ。そのせいか、なんだか今日は妙に疲れる。また脇で休もう。

 

脇で休んでいたらいつの間にかヘッドライナーの時間になっていた。ヘッドライナーは「尊師マーチバンド」か・・・。なんだか想像ついてしまった。今日は本当に疲れた。もういいや。

 

ヘッドライナーなんかどうでもいいわ。フェスもどうでもいいわ。ロックに宗教とか別に要らないわ。帰ろう。

 

・・・来年も、もういいわ。

 

(フィクションです)